2012年10月 コマニーの中国子会社での不適切な処理?(子会社か否か)

 先だって扱った二重監査の問題も興味深い話なのですが、それよりも本件で特に注目したいのが、コマニーの中国子会社である格満林実業のC副社長が設立した南京捷林格建材有限公司(以下、「捷林格」という。)が、コマニー又は格満林実業の「子会社に該当していたのか」という点です。
 そもそも本件は、証券取引等監視委員会の立入検査が発端となっており、中国の会社を巡って不適切な処理が行われた疑いがあるとされていますが、第三者委員会の調査結果(以下、調査報告書という。)及びそれを受けた一部報道では「不適切な処理はなかったが、子会社の要件に該当することがわかった」としています。
 コマニーの社長も「(捷林格が)子会社との認識がなかった。反省している」と話したそうで、自身を含めて処分を検討し、再発防止に取り組む考えを示しているとの報道もありました。

 しかし、「本当に不適切な処理はなかったでしょうか?」「本当に捷林格は子会社だったのでしょうか?」上記の点に関して、報告書を読む限りいくつかの疑問があります。以下、少々長くなりますが、検討したいと思います。

 

(1)2ブランド戦略の意味と捷林格設立の経緯
 調査報告書では、「2ブランド戦略」という用語が頻出します。これは高級間仕切りパネルである格満林ブランドは堅持しつつ、これとは別に低価格市場向けの間仕切りパネルを製造・販売させる戦略です。
 「捷林格」が設立されたのは、この低価格ブランド戦略の実行のためでした。
 調査報告書の「3.捷林格設立の経緯」では、以下の記述があります。
・「C副総経理(格満林実業の副社長)は、自ら経済的リスクを負って2ブランド戦略を具体化させるための新会社(捷林格)を設立することを決意した」
・「コマニー又は格満林実業の子会社として捷林格を設立するのでは2ブランド戦略の意味がなく」
・「C副総経理が2ブランド戦略のため会社(捷林格)を設立することにコマニー本社が難色を示すおそれもあった」
・「C副総経理は、コマニー本社に迷惑をかけることなく会社(捷林格)を設立するため、A社長(格満林実業の社長)に対して捷林格の設立資金であることを隠し、マンション購入資金として資金を借用することを思い立った」
 上記の実態からすれば、C副総経理はコマニーや格満林実業の社長とは直接的な関係を持たないまま「捷林格」を設立したことになりそうです。この場合、我が国の会社法で規定される競業避止義務違反や利益相反取引等の法的責任の問題も議論されるべきところかもしれませんが、本稿ではそれは別問題として、捷林格という会社がコマニー等に秘密裏に設立された以上、調査報告書が結論付けた「捷林格は当初よりコマニー又は格満林実業の子会社に該当する」との判断の適否が疑問視されます。この点は下記の(3)で再検討します。

 

(2)中国子会社の格満林実業のC副社長が設立した「捷林格」の業務
 調査報告書では、「捷林格の業務」として、以下の通り、その業務実態を示しています。
・捷林格の名目上の代表者はC副総経理の長男だが、C副総経理が実質的に経営していた。
・捷林格の事務所は格満林実業の工場から3分の近さにある。
・最低限の経費でシンプルな経営
・捷林格で販売する商品は、すべて格満林実業からのOEM供給に依存した。
・格満林実業とは別個のブランドとして販売していた
・すべて時間制のアルバイトを雇用していた
・信用販売は行わず、代金の前払いを承諾した販売先にのみ商品を納入した
 上記の実態は、低リスクで慎ましく、かつ実直な経営実態を示唆する一方で、捷林格が秘密裏に設立された会社である以上、あまり表だって活動することができない事情をも推察することができます。
 格満林実業から捷林格への売上高の推移(比率は連結売上に占める比率)は以下の通りです。2007年度(9百万円;3.4%)→ 2008年度(44百万円;4.1%)→ 2009年度(158百万円;4.6%)→ 2010年度(269百万円;4.4%)
 そもそもコマニー本体の売上が、子会社の売上に比して重要性が高い(2012年3月期のコマニー単体の売上高26,765百万円;連単倍率1.03)ため、これと比較しても上記の売上高に重要性が認められないように見えます。しかし、注目すべきは、秘密裏に設立された捷林格が飛躍的な勢いで格満林実業と取引を増加させているという事実です。
 この点、調査報告書では、「C副総経理は、いずれ捷林格の企業規模が拡大しないうちに、コマニー又は格満林実業に買収又は吸収してもらうことなどをB総経理(C副総経理の上司で格満林実業の幹部の一人)と話し合っていた。」としています。この点も疑問です。
 なるほど、買収又は吸収してもらおうという認識は、利益相反取引や競業避止義務違反の法的な問題の可能性からしても当然のことなのでしょう。
 しかし、上記の捷林格の業績の推移を見る限り、「既に」かなりの規模拡大が進んでいるといって良いでしょう。また格満林実業のA社長やコマニー本社と『買収又は吸収してもらう』と話し合っていたわけではないのですから、その将来の見込みや確実性は相対的に低いと考えられます。
 また、結果的ではありますが、捷林格は2011年8月にコマニーに買収されていますから、上記の記述と整合すると考えることもできます。
 しかし、この点も見方によっては、捷林格の素性が明らかになるまでの間、できるかぎり捷林格は秘密裏に活動し、仮に表沙汰になってしまえば、そのときに親会社の管理不十分を理由に、穏便に買収させてしまおう、との考えが当事者にあったのではないか、と推察できなくもありません。
  ちなみに、「捷」は「敏速」の意味があります。(ちなみに、「捷林格」という会社の名前の由来は知る由もありませんが、「捷」=「敏速」を冠に付けているわけですから、「我が社はレスポンスは速い」という気持ちが込められているでしょう。しかし、そもそもの中国子会社である「格満林」の真ん中の「満」を取って、「格」と「林」をひっくり返していることも考えると、「捷林格」という名前にはレスポンスが早いという意味以上の気持ちがこの名前に込められているように思えます。)

(3) 捷林格は子会社に該当するのか、またいつから子会社に該当するのか。
 子会社の範囲の妥当性は会計上・監査上、主観的な判断が介入されやすく、監査リスクの高い領域とされます。また子会社の範囲について様々な実務指針が公表されており、それらを参考にしながら子会社に該当するか否かの実務上の判断がなされます。
 調査報告書においても、そうした指針と照らしながら議論しており、なるほど首肯しながら読み進めることはできるのですが、どうしても「捷林格は『当初より』コマニー及び格満林実業の子会社に該当する」という結論には抵抗を感じざるを得ません。
 以下では、調査報告書で使用されているキーワードをいくつか示します。
・「C副総経理は緊密な者に該当」・「緊密な者と合わせて議決権の過半数を所有」
・「機関の構成員の過半数を占めている」
・「事業依存度が著しく大きかった」
・「C副総経理の捷林格経営が格満林実業の連携、一体として終始」
・「捷林格設立時に将来のコマニー又は格満林実業への結合が約束ないし合意されていたという証言が格満林実業のB総経理とC副総経理の両方から確認されている」
・「捷林格は低価格規格品の建材事業を行う一事業部門を担う事業体」
 上記の既述を見る限り、確かに捷林格がコマニー又は格満林実業の子会社であったことを推察することは可能です。しかしながら、上記の子会社に該当する理由の記述に係る疑問は、本件の当事者であるBとCの証言が示されている一方で、コマニーの意向や格満林実業のA社長の意向がハッキリしない点です。換言すれば、上記理由が「支配される側の理論」に終始している点です。
 いうまでもなく、親子会社間の支配従属関係は実質的な見地から判断され、出資、人事、資金、技術、取引等の形式的な関係はその考慮要件に過ぎません。その実質的な判断は、つまるところ「支配従属関係」の有無がポイントになると考えられます。
 すなわち、親会社側が「支配している」という意思・能力を有していることと、子会社側が「従属している」という認識を持っているということです。換言すれば、親会社側は「子会社に言うこと聞かせようとすればできる」状況にあって、子会社側は「親会社の言うことを聞かざるを得ない」と認めていることです。
 この点、本件に当てはめると、捷林格側は秘密裏に設立されたわけですから、開示会社である親会社のコマニーはその存在すら知らなかった可能性があります。この場合、その会社を支配しようとする意思は、コマニーにはなかったことになってしまいます。
 又一方で、既述したとおり、捷林格は「コマニー本社が難色を示すおそれもあった」という状況下で設立されていますから、捷林格はコマニーに支配されている認識はなかったと考えることもできるのです。

加えて、C副総経理が「自ら経済的リスクを負って・・・新会社を設立」したわけですから、C副総経理からして捷林格は「自分の会社」と考えられ、「コマニーの子会社」「格満林実業の子会社」には該当しなかったとも考えることができます。
 更に、既に(1)で指摘したとおり、調査報告書では、「コマニー又は格満林実業の子会社として捷林格を設立するのでは2ブランド戦略の意味がなく」としていますから、少なくとも設立当初、「捷林格はコマニー又は格満林実業の子会社には該当しなかった」と考えた方が自然な気がするのです。
 もう一つ。設立時から子会社であるならば、2011年8月にコマニーが捷林格を買収する必要はなかったことにもなりかねません。

 それでは、いつ子会社に該当することになったのか。
 それは2011年8月の買収した時点ではなく、両者に支配従属関係が生まれた時点と考えます。

 具体的には、2011年6月頃、中国事業を推進する部門である経営企画部から捷林格の実態が報告され始めたようで、時期を同じくして捷林格の買収が検討されているようです。この時点は、緊密な者を通じた出資、役員人事、取引依存度等を通じて、コマニー本社が捷林格を支配する意思や能力を認識した時点であり、また捷林格もその時点で「コマニー本社の言うことを聞かざるを得ない」と観念し、支配されているという認識を持つに至ったと思われるのです。
 こうした支配従属関係こそが子会社の範囲を決定する実質的な要件の一つと思います。

(本稿は、あくまで調査報告書(要約版)に基づいて私見を述べたに過ぎず、その背景にある種々の事実関係等を認識しないまま、当方の推察が伴う見解も多分に含まれます。事実に反する内容、不正確な記述による誤解を招くおそれがあれば訂正・削除いたしますので、ご指摘下さい。)takun134@gmail.com
 長くなりました。次回は関連当事者の開示の疑問を検討します。Taku