2012年5月 アコーディアの経営者不正

20125月、株式会社アコーディア・ゴルフ(以下、アコーディア)は、「特別コンプライアンス委員会の調査報告書の受領および当社の対応に関するお知らせ」を公表しました。

1.背景
 アコーディアの株主である株式会社オリンピア(以下、オリンピア。パチスロメーカー)は、アコーディアの元代表取締役社長執行役員(以下、A元社長)が不正を行っているとして、アコーディアの監査役にその調査を求めていました。
 これをうけてアコーディアの特別コンプライアンス委員会は、調査報告書(以下、報告書)を提出して、A元社長のみならず、取締役専務執行役員(以下、B専務)らのコンプライアンス上の問題を明らかにしています。
 なお、アコーディアの株主であるオリンピアは、株式会社平和(パチンコメーカー;以下、平和)の子会社であり、また、平和はPGMホールディングス株式会社(アコーディアの最大の競合会社;以下、PGM)の親会社です。つまり、今回アコーディアにA元社長の不正に係る調査依頼をしたオリンピアとPGMとは、平和を親会社とする企業グループに属しており、両者は兄弟会社に該当します。
 本件は、PGM側によるアコーディアへの経営統合に向けた揺さぶりと捉えることも可能です。特にB専務が、PGM側に寝返った状況も推認することができ、今後の両者の経営権をめぐる戦いが注目されます。しかしながら本投稿では、あくまで不正事例そのものに焦点を絞りたいと思います。

2.不正の存在の可能性に関する指摘
 オリンピアは、アコーディアの元A社長に対して、以下の不正があると指摘しました。
①港区三田所在のマンションに愛人と同居しているところ、このマンションは、取引業者に便宜を図る見返りに無償で提供させているものではないか。
②親密な女性のうち4 名を「モニター」と称し、少なくとも2 年間にわたり、モニター料名目で毎月約20 万円の報酬を支払っていたのではないか。
③堂島カントリークラブにおいて愛人をソムリエとし、初期を除いて勤務実態がないのに、2 年間にわたり、毎月約20 万円の報酬を支払っていたのではないか。
④親密な女性が経営する大阪・北新地のクラブでアコーディア及びその連結子会社の経費で飲食を繰り返し、その飲食費は4 年間合計で4000 万円程度に達する可能性が高い。
⑤視察と称して、日常的に、アコーディア等の経費で、親密な女性と私的な旅行をしている。
⑥アコーディアのゴルフ場で、親密な女性を同伴して平日の昼間からゴルフに興じている。

 これに対して、上記報告書は、このオリンピアの指摘の事実の有無についての調査結果を含んでおり、その概要及び当方の私見を述べると以下のようになります。

 

①港区三田所在のマンションに愛人と同居しているところ、このマンションは、取引業者に便宜を図る見返りに無償で提供させているものではないか。

 報告書によると、確かにアコーディアの子会社の取引業者が事実上、賃料等を支払っていました。その上で、賃料等の提供を受けていた社長と、このスキームを実行した子会社社長はコンプライアンスの観点から看過できない。また、B専務は・・・三田のマンションの賃貸借契約の切り替えに自ら関与しているのであるから、A元社長及び子会社社長と同様の非難を受けることになる、としています。
 この点、同報告書では、「愛人と同居しているかどうか」については明言されていませんが、A元社長は平成22年に離婚しており、その後に内縁関係にあるCと同居しているのであれば、「愛人と同居」に該当しないのではないか、と思います。愛人に該当するかどうかは問題視するべきことではなくて、A元社長が取引先からの便宜を個人的に受けていたこと自体に着目した方が良いかも知れません。

②親密な女性のうち4名を「モニター」と称し、少なくとも2年間にわたり、モニター料名目で毎月約20万円の報酬を支払っていたのではないか。

 報告書によると、確かに交際相手をモニターとして選任した(またはモニターと交際した)事実があります。モニターになると、原則としてプレー代とゴルフ場での飲食代は無料(全額アコーディア負担)となります。さらに有償モニターの場合には、月111,111円の委託料の支払いを受けます。今まで選任された有償モニターは5名で、このうちA元社長紹介でB専務決裁の有償モニターは2名(平成218月~平成243月)であり、そのうち1名は上記①の内縁関係にあるCでした。また無償モニターの中にはB専務の配偶者も含まれていたようです。
 この点、なるほどゴルフ場の善し悪しは実際にプレーして、そのサービスを受けて実感しないと判断できない面もあるので、モニター制度自体は必要な制度なのかも知れません。しかし、交際相手(A元社長の場合)や配偶者(B専務の場合)をモニターにするのは問題あるでしょう。明らかにやりすぎです。

③堂島カントリークラブにおいて愛人をソムリエとし、初期を除いて勤務実態がないのに、2年間にわたり、毎月約20万円の報酬を支払っていたのではないか。

 報告書によると、こうした事実は認められないようです。A元社長とそのソムリエの女性とは以前は交際していたことがあったものの、10年以上前に交際は終了したものと認められ、そうである以上、社長において、アコーディアの資金を使ってその女性に金員を与えたいと考えるような格別の動機があるとは認め難い、としています。
 この点、人の価値観は様々でしょうから断定的なことは言えませんが、少なくとも私の場合、それなりに出世した自分であるならば、昔の交際相手に便宜を図りたいと思いますが、実際のところはどうなんでしょうか。

④親密な女性が経営する大阪・北新地のクラブでアコーディア及びその連結子会社の経費で飲食を繰り返し、その飲食費は4年間合計で4000万円程度に達する可能性が高い。

 報告書によると、確かにその店に支出した経費は多いことを認めているようです。当該クラブの利用回数と金額に鑑みれば、当該クラブを利用する頻度については、コンプライアンスの観点から再考すべきである、としています。
 この点、A元社長の接待交際費の額がさすがに多額です。単なるひがみで話をすることは本意でありませんが、A元社長の交際費の実績額は以下の通りでした。
 20103月期 11,839千円
 20113月期 11,781千円
 20123月期 21,969千円
 年間2千万円は、かなりハードな使い方をしないと使い切れないと思いますが、実際に使っている人からすれば、まだまだ足りない、と思うのでしょうか。

⑤視察と称して、日常的に、アコーディア等の経費で、親密な女性と私的な旅行をしている。
 報告書によると、A元社長はファーストクラスの正規の航空券料金とビジネスクラスの航空券料金との差額をプール金として、それをA元社長の出張の同行者(アコーディア社員でない女性C)の旅費に充てていたようです。確認できた範囲では、プール金を利用して女性Cのビジネスクラス航空券を回購入した回数は3回でした。
 この点、本来ファーストクラスで利用が認められているところ、ビジネスクラスに落とし、その差額を女性の旅費を捻出していたことになりますから、やはりその差額はアコーディアに帰属するはずでしょう。会社のお金を私的に使ったされてもやむなしと思われます。

⑥アコーディアのゴルフ場で、親密な女性を同伴して平日の昼間からゴルフに興じている。
 報告書によると、平日にプレーをすること自体が非難される理由はない、としています。
 この点、なるほど同感です。一般の人は平日の昼間からゴルフに興じていることについて問題になるでしょうが、ゴルフ場経営にかかわる人物であれば、そのこと自体が問題視されるわけではないでしょう。ただし、同伴しているプレーヤーが上記女性Cである場合には、なかなか理解できる人は少なくなるでしょう。

 最後に、
 上記いずれもインパクトのある指摘でしたが、やはりコンプライアンス上の問題として決定的なのは、①と②の問題でしょう。特に①のマンションについては、A元社長ばかりでなくB専務も個人的に使用するマンションの賃料の負担を免れていたことが、上記報告書で明らかにされています。本来個人で負担すべき費用を会社等に負担させていたわけですから、大問題です。

 ここまで重大なコンプライアンス上の問題が見過ごされていたことは、A元社長のワンマン経営が横行し、またB専務がこれに追随していたことは容易に想像がつきます。なお、報告書を見る限り、かなり綿密な隠蔽工作が伴っているようにも見受けられますから、他の取締役や監査役の監視の目は届きにくかった可能性も否定できません。しかしながら、ここまで重大なコンプライアンス上の問題を看過してきた他の取締役や監査役の責任問題は、議論の対象とすべきでしょう。
 有価証券報告書をみる限り、かなりの経歴の方々が監査役として名を連ねています。

 監査役監査が有効に機能していれば、ここまで重大なコンプライアンス違反に発展しなかったのではないでしょうか?

 例えば、多額の交際費の支出、不透明な不動産賃貸契約やモニター制度の他、A元社長やB専務の誠実性や言動等の中に、多くの不正の存在を示唆する状況があったはずです。
 監査役や他の取締役は、そうした不正の兆候について一切気が付かなかったとは思えません。
 本件は、アコーディアを寝返ったと思われるB専務が上記不正を暴露したように受け止められますが、それがなければ旧態依然の不正が横行し続けていたことになります。

 私もアコーディアの株主で、ゴルフが大好きです。それが故に、なんとも、やりきれない話です。Taku