2013年4月 クロニクルの会計処理の訂正

 宝飾品事業、投資事業、WEB情報事業、流通サービス関連事業、リサイクル事業を主たる業務とする株式会社クロニクル(JASDAQ)は、「第三者調査委員会の調査報告書(最終報告)受領に関するお知らせ」を公表しました。

 これによると同社の前代表取締役会長が主導的な立場として不正を行っており、その不正に係る会計処理の訂正を行うとしています。不正の概要は以下のとおりです。

1.営業貸付金

前代表取締役会長が主導的な立場として不明朗な貸付(608百万円)を行い、うち300百万円は回収したものの、回収見込みの無くなった貸付金308百万円について貸倒処理が遅れていました。当該債権は事実上消滅していたものの、金銭消費貸借契約書の仮装や監査人の残高確認に対する通謀虚偽表示が行われていたようです。

2.海外営業出資金

 前代表取締役会長が海外にファンドを組成し、これに出資する形態で資金(計904百万円)を流出していましたが、当該ファンドから前代表取締役会長自らに資金を環流させていました。当該営業出資金につき評価損が計上されないようにするため、投資実態があるかのようにファンドマネージャーに定期的に実態とは異なる報告書を作成させていたようです。

3.預け在庫

前代表取締役会長が自ら商品(410百万円)の販売を試みるとして、当該商品を受け取ったものの、簿価未満で売却した場合における売却損の計上を防ぐ目的で、そのまま預け在庫として計上し続けていました。その後、前代表取締役会長からの売却代金の入金はなく、実在性のない預け在庫だけが残る結果となりました。これも前代表取締役が個人的に領得する目的で行ったものと考えられています。

果たして、上記の不正合計金額は1,614百万円です。

 

今回の不正事例の原稿は、上記の通り分量がそれほど多くないのに、まとめるのに疲労感がたっぷりです。何故でしょうか?

内部統制の目的は不正や誤謬の防止発見にあり、内部統制は経営者が構築するものです。

われわれ不正事例研究会は、不正事例の研究を通じて過去の反省に習い、不正防止策を検討することにその意義を感じています。

しかし、今回の不正の首謀者である前代表取締役は、内部統制を構築する責任を有しながら、私腹を肥やすべく会社を食い物にしたことになります。代表取締役自身が不正に関与する場合、その者が構築する内部統制は不正の隠蔽には有効に機能することはあっても、不正の発見には機能するはずはありません。

正に内部統制の限界であり、お手上げの状態です。

そんな空しさを感じつつ原稿を書いたせいか、疲労感が強いのかも知れません。

こうした経営者不正は、単純な犯罪(業務上横領罪(刑法253条)又は特別背任罪(会社法96013号))であって、どのように防止することができたのか、またどのように早期に発見できたのか、の反省材料にはなりにくいのでしょう。

なお、不正の首謀者である前代表取締役会長は既に死亡しており、死亡後、相続放棄が行われていることから、死亡時点において前代表取締役の正味財産はなかったようです。

(不正実行者が既に死亡していることも筆者の気持ちがブルーになる原因でした。)

調査報告書では、前代表取締役会長のワンマン経営に係る記述があります。

「もともと小規模な会社であり」、「他の役員も前代表取締役会長を信頼するとともに絶対視しており、前代表取締役の指示に逆らうのが困難な状況に」あり、「取締役会議事録の内容について十分に検証することなく押印することが常態化していた」。

 最後に、本事例からあえて不正防止策を検討するならば、「他の役員さんがシッカリしていないといけなかった」ということでしょうし、また今後の法的な問題としては、株主の動向も気になりますが、「他の取締役・監査役の会社に対する損害賠償責任がどうなるか?」ということに焦点が当てられることでしょう。Taku