2012年9月 花王子会社経理責任者の業務上横領270,000,000円

 花王といえば有名ですね。日用品大手です。
 こうした有名企業の不正は、他の有名でない企業に比べるとニュースになりやすいようです。
 特に今回は、単に同社名義の口座から自分の口座に資金を振り替えていたのではなく、情報システムに精通した管理職の不正実行者は、同僚になりすまして第三者のチェックを受けたように装って横領していたという手法が注目されました。
 個人的に興味を抱いたのは、会社側が事実を公表したのではなく、愛知県警が発表したことでニュースになったです。通常?(あくまで私の感覚ですが)こうした事件は、公開会社の場合、適時開示情報として開示されるのでは?と思ってしまったわけです。
 花王の適時開示は必要なかったのでしょうか?

 

 愛知県警によると、2006年2月、1,000万円を会社の口座から自分の口座に振り込み、着服したとして、2012年9月19日、業務上横領の容疑で花王の子会社(愛知県)の情報システム部長を逮捕した。株の購入資金等に使ったとして、不正実行者は容疑を認めているようです。
 この不正は2002年頃から始まり、会社の被害総額は2億7千万円(時効分を除くと1億6500万円)とのことです。不正実行者は、保有する株の売却により1億2千万円を返還したものの、残る1億5千万円は返済の見込みがない模様です。
 業務上横領罪の控訴時効は7年。
 2002年頃から始まった長きにわたる横領は、一部、時効により刑事訴追できなくなりました。
 以上が今回の事件の概要ですが、不思議に思ったのは以下です。

 

「着服容疑発覚後の昨年(2011年)11月、会社は同容疑者を懲戒解雇している。」

 

 懲戒解雇をするには、単に「横領の疑いがある」という理由では不十分で、その事実を示す証拠ないしは相当な蓋然性が必要とされます。とすれば、会社側は去年の11月に不正の事実を把握しておきながら、適時開示せずに、今回の警察の発表に至って、本事件が一般に開示された、ということです。

 東京証券取引所のHPによると、適時情報の開示が求められる「子会社の発生事実」は以下の通りでした。
1.子会社における災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
2.子会社における訴訟の提起又は判決等
3.子会社における仮処分命令の申立て又は決定等
4.子会社における免許の取消し、事業の停止その他これらに準ずる行政庁による法令に基づく処分又は行政庁による令違反に係る告発
5.子会社における破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は企業担保権の実行の申立て又は通告
6.子会社における手形等の不渡り又は手形交換所による取引停止処分
7.子会社における孫会社に係る破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は企業担保権の実行の申立て又は通告
8.子会社における債権の取立不能又は取立遅延
9.子会社における取引先との取引停止
10.子会社における債務免除等の金融支援
11.子会社における資源の発見
12.その他子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実

 あえて言えば12.に該当するかどうかでしょうか?
 最近の適時開示の事例からすると、子会社の不正でも適時開示の対象になっているケースが多い気がしたもので、いろいろと勘繰ってしまいました。
 むしろ、こうした不正事例は開示していないケースの方が多いのでしょう。考えを改めます。
 花王は本事件を適時開示せずにOKだったのでしょうね。

 

 なるほど、花王の2012年3月期の連結売上1兆2千億、税前利益が1千億円でした。
 今回の不正は、2億7千万円。税前利益との比率は0.27%。金額的な重要性がないことは明らかです(質的な重要性は別の議論ですけど)。

 一応、同社の広報に電話でも確認しました。
 「警察の捜査が進んでいる状況での適時開示は、適切な対応ではないと判断した」とのこと。
 そうでしたか。
 何でもかんでも開示すれ良いと言うわけではなさそうですね。
 本件を契機に情報開示のあり方について、思いを巡らせてみます。Taku