2015年8月 架空仕入を利用した金銭着服

長野県のリーダーカンパニーとして「新しいガス事業の創造に取り組んでいる」サンリン株式会社(JASDAQ)において、架空仕入を利用した金銭の着服が発覚しました。

同社は、連結売上高32,121百万円、純利益596百万円(いずれも平成273月期;同社の有価証券報告書より)であり、ハイライト情報を見る限り業績は堅調に推移していると思われます。

不正行為が判明した経緯として、平成28年3月期第1四半期決算の処理及び監査法人の四半期レビューの過程において、支店における棚卸資産残高の異常な変動について調査を行ったところ、従業員(1名)による「架空仕入を利用した金銭着服」が明らかになった、とのことです(業績に与える影響、複数年累計で約110 百万円と推定)。

会社が財・サービスの提供を受けていないままに、その対価を会社に支払わせ、その資金を横領する手法は、資産を流用する不正の常套手段です。問題となるのは、そうした単純な不正が長年にわたって、なぜ防止・発見できなかったか、ということです。

当然に不正実行者は、不正発覚をおそれて隠蔽工作を行っているはずですが、会社はその公表資料で「架空棚卸資産及び架空売上の計上という不正操作」の可能性について言及しています。この表現では具体的にどのような不正隠蔽工作であったかはハッキリしません(詳細な調査が未了なので、具体的に指摘することはできません)。

ただ、本件に限らず一般的に重要なことは「不正の発生」と「その不正の隠蔽工作」とを混同しないことです。

本不正は、実際に仕入れていない商品の対価を外部業者に支払ったこと自体に問題であると思われます。その上で、実際に仕入れたように仮装すれば「架空棚卸資産」を計上するでしょうし、さらにそれを販売したように仮装すれば「架空売上」を計上するでしょう。

こうした架空棚卸資産・架空売上は、あくまで不正の発見を免れるための隠蔽工作に過ぎません。重要なことは、不正の隠蔽工作の具体的な手法よりも、不正の発生原因そのものなのです。

不正が発生した組織では、時として不正の隠蔽工作の巧妙さを理由に、不正を発見できなかったことの正当性を強調するばかりか、不正行為の発生原因の究明が疎かとなる原因となることも考えられるのです。

確かに、不正は事後的な意味では「発見」されるべきものであり、さらに発見された不正は「是正」され、再発防止策が講じられるべきです。しかし、もっとも重要なことは、不正を事前に「防止」することなのです。そのためには、隠蔽工作の巧妙さでなく、事前防止のためのコントロールの脆弱性に着目する必要があるのです。

内部統制は「防止」「発見」「是正」のための仕組みですが、特に「防止」のためのコントロール、本件の例でいえば「外部業者への支払う際のコントロールの脆弱性」に着目する必要がありそうです。

いずれにしても現在、同社は調査委員会を設置し事実関係の解明のため本格的調査を行っているようですから、その後の調査結果の報告を待ちたいと思います。Taku