2012年11月 神姫バス子会社社長の不正(架空発注) 357百万円

 兵庫県の大手バス会社である神姫バス(大証2部;2012年3月期の連結売上399億円、同当期純利益13億円)のグループ子会社社長(神姫バスの元専務。以下、元専務という。)の不正です。
 その手法は単純明快でした。
 架空工事や代金を水増しした工事を架空の建設業者や協力請負業者に発注して、実際には工事を行っていないにもかかわらず、工事を行ったように見せかけ、その支払額を元専務が取得して私的に流用する手法です。不正支出額の合計は357百万円でした。
 この元専務、平日・休日を問わず場外舟券売場に通い、1日数百万円もの賭けを行っていたようです。親戚、知人、神姫バスグループ内の同僚からの借金も多額にあったようです。こうなると、どうしようもありません。
 こういう人は、お金がいくらあってもなくなるまで博打を打ち続けるのでしょう。
 高級マンションやら高級車など、資産として残るものを購入していれば、それなりに返済手段にもなったのでしょうが、博打でスッテンテンになったのでは話になりません。

 神姫バスが2012年11月に公表した「当社子会社元役員による不正行為に関する調査結果について」では、今回の不正の原因として、親会社の子会社経営に対する指導、調査、分析が不十分であったとしています。もちろん、親会社の監視も重要なのは当然なのですが、私が個人的に重要と考えることは、それよりも日常的に接触しているはずの他の役員の責任です。
 報告書を見る限り「利益相反取引の承認を得るなど必要な社内手続は行われていましたが、法令や社内手続の遵守を形式的に審査しているだけでは不正行為の防止策として十分ではありませんでした」としています。しかし、形式的とはいえ社内手続が行われていた以上、他の取締役や監査役は元専務の横行を知っていたはずでしょうし、少なくともその不正の兆候は把握していたはずです。
 報告書が指摘するように、今回の不正が元専務の単独犯であったとしても、また不正が発生した子会社内で元専務の意思決定について異を唱えにくい雰囲気があったとしても、会社法の枠組みでは他の取締役や監査役は当然に監視責任を負っているわけです。
 「しょうがない」で済まされる問題ではないでしょう。
 会社は、元専務の刑事告訴及び損害賠償請求を行う予定としています。当然でしょう。しかし、これだけ博打にのめり込んだ元専務から資金を回収できる見込みはほとんどないと考えることが自然です。であれば今回の損害は、誰が責任を負わなければならないのでしょうか?
 同報告書で示されている子会社の役員への処分は、常務取締役を取締役へ降格、取締役の減俸15%~20%(3か月)でした。この処分、重いのでしょうか、又は軽いのでしょうか?相応なのでしょうか?
 加えて、監査役の責任や処分も気になるところです。
  最後に、報告書が示している再発防止策のうち、「(5)コンプライアンス委員会の活動強化」に下記がありました。「本件不正行為当時、・・・社内では結果的に法令順守よりも元代表者(元専務。筆者注)の指示が優先されるようになっておりましたが、その一因として、役職員とりわけ取締役の自らに課せられた善管注意義務に対する理解と認識が不十分であったことが考えられます。」
 そのとおりでしょう。
 その「理解と認識が不十分であった」ことの責任こそが、とりわけ重要なのです。
 本件の再発防止策の要は、他の取締役及び監査役の責任意識の高揚化にあります。
 逆に言えば、取締役や監査役の責任をシッカリ自覚している役員は、意外に少ないのかも知れません。
 皆さんの会社はどうでしょうか?Taku