2013年2月 ネットワンシステムズ不正請求の支払い748百万円

  ICT市場へのネットワークシステム構築等を手がけるネットワンシステムズ(東証一部)は、「不正行為の判明及び平成25年3月期第3四半期報告書の提出遅延ならびに当社株式の監理銘柄(確認中)への指定見込みに関するお知らせ」を公表しました。
  事実関係の詳細は調査中のため、今後開示されることになりますが、第3四半期(平成24年4月1日~平成24年12月31日)の四半期財務諸表の提出が遅延する事態は、不正による損害そのものよりも、会社にとって大きな痛手かもしれません。
 ちなみに同社の第3四半期の短信は公表済みです(売上108,705百万円(前期比3%減)、経常利益5,981百万円(前期比44%減))。短信は証券取引所の規則に基づいて開示される資料に過ぎず、監査人のレビュー対象ではありません。監査人のレビュー対象は、あくまで四半期財務諸表で、これは45日以内(本件では平成25年2月14日まで)に公表しなければならず、この提出の遅延を受けて監理銘柄への指定が見込まれています。

 さて、現時点で判明している事実は以下のとおりです。
 ネットワンシステムズの社員と外部業者らとが「共謀」して、架空の外注費名目で不正な請求を行わせる手口で金員を騙取していました。外部業者に支払われた金額は、平成17年から平成24年の8年にかけて、総額748百万円に達する可能性があるとのことです。ただし、会社は、財務諸表に与える影響は「軽微」と考えています。

 今回の不正事例については、2つのポイントとして、「発覚の経緯」と「財務諸表に与える影響」を考えてみます。まずは発覚の経緯から。
 社員と外部業者らとが「共謀」し、不正な請求を行わせて、実際には収受していない財・サービスについて支払いをさせる不正は常套手段です。外部業者が絡むことで、請求書や納品書といった外部業者の証憑書類が「むしろ完璧に」社内に整備されますから、書類だけ見ていても不正発覚には至らないケースが多いようです。
 むしろ感覚的に、「この支払いは何だっけか?」とか、「なんでこんな高いんだ?」という動物的な感覚の鋭い人の「素朴な疑問」こそが、こうした不正発覚の発端になりうるのですが、そのような優秀な人は仕事に追われてか、不正発覚の究明作業に手が回らず、不正発覚が遅れるケースも多いようです。
 では何故見つかったのでしょうか?
 よくあるパターンは、不正に行き詰まった不正実行犯の自白や行方不明、関係者の内部告発などがありますが、今回の発覚の経緯は「税務調査」でした。
 会計士監査の場合でも残高確認といった手法により、取引先に調査協力を依頼することはありますが、これはあくまで会社側からの任意の調査依頼に過ぎません。
 一方で、税務調査では、「なんか怪しいな。取引先の処理も見ておくか。」というように、本件で言えばネットワンシステムズの外注先の会計処理を調査することができるわけです。
 多分に本ケースでは、(あくまで憶測に過ぎません。誤解無きように。)ネットワンシステムズの外注費の不規則・不自然・不合理な動きを察知した「優秀な」税務調査官が、社内の請求書や納品書等の証憑書類のみでは証拠として不十分と考え、請求書の送り手である外注先の会計処理もチェックしたのではないか?と思うのです。
 その結果、ネットワンシステムズで計上している外注費に相当する金額が、発注先で収益計上されていないことが明らかになったのでしょう。
 また、今ひとつのポイントとして、「財務諸表に与える影響」が軽微であるとの公表です。
 748百万円という金額が軽微であるとの指摘は違和感があります。
 しかし、会計処理を考えれば、この748百万円は既に外注費として経費処理済みであって、仮に不当な支払いだったとして、不正実行者に求償することはあるにしても、不正実行者が当該不正で得た金額をそっくり貯蓄していない限り、個人での返済可能性は低いでしょう。
 その結果、仕訳で考えれば、過去に計上した外注費を取り崩して、不正実行者への求償債権として未収入金を計上し、当該未収入金の回収可能性に問題があるから貸倒損失とする、という流れになります。この場合、外注費が取り消されて貸倒損失となるわけですから、損益計算書の段階損益に影響はあるものの、通算された当期純利益に与える影響はないことになります。
 ただし、税務調査の結果、対価のない支払いとして寄付金認定されて申告加算が必要となり、納付税額が過小だったことから追加納付税額が生じます。過去、どれだけ遡及するかによって影響額は代わってくるでしょうが、これは今後の調査結果を注目することにしましょう。Taku