2013年7月 増田製粉所子会社の従業員不正の防止策について

 既報の通り、株式会社増田製粉所の連結子会社において、元従業員による不正行為が発覚しました。本不正事例の社会一般に与える影響は必ずしも大きくはないのでしょうが、いわゆる中小企業において発生しうる不正を防止する観点から、本不正事例を題材にして「少なくとも保持すべき管理体制」を検討しましょう。
 なんといっても本不正事例の特徴は、「常勤役員3名、従業員12名」という小規模な組織ということです。小規模である以上、構成員一人一人に課されている役割は多岐にわたることから「兼務の増加→牽制不十分」となり、不正が発生しやすくなります。
 しかし「小規模企業での不正はやむを得ない」と匙を投げるのではなく、下記の点に注意をして、相応の不正防止策を構築することこそが重要と考えます。
 以下の「ちょっとした工夫」で不正が発生しにくい状況になり得るのです。以下の工夫が、貴社の管理体制の構築方法を見直すきっかけにしてもらえたら幸いです。

・現金出納や小切手の振出について、担当者が単独で処理することを禁止する。
 不正対象になるケースが多いのは、現金か現金同等物など換金が容易な資産です。
 棚卸資産については下記の「実地棚卸」をご覧いただくとして、少なくとも現金や小切手の振出等の「不正が発生しやすい」作業は、従業員一人に任せっきりにするのは問題があります。
 小規模会社の場合には、現金出納業務を「思い切って」従業員全員で行うようにすることが考えられます。大企業では考えにくいですが、小口の現金支払いについては、備えられた財布(役員等が定期的に残高を確認して適宜補充する)から、各従業員が領収書等の提出を条件として各自に精算させるわけです。その精算ごとに各自が現金残高を確認して、押印することにすれば、現金過不足があった時点で、「あれ、あってないゾ!」「前に精算した人誰だ?」との指摘となり、直ちに現金過不足が明らかになります。
 また、小切手の振り出しについては、未使用の小切手用紙や小切手振出控え、印鑑の保管場所やチェックライターの使用場所等、一定のルールを定めて、そのルールに従うことを厳しく求める必要があります。「小切手関連の作業は、とてもやかましい」という印象を従業員に受け付けてしまえば、相当な牽制効果が期待できます。特に印鑑の管理は重要です。少なくとも、役員以外の人が黙って使えるような状況にしないことが肝要でしょう。

・月に一度は関連資料の一致の確かめる。
 販売管理システムと会計システムのデータ、現金出納帳の残高と現金の実際有り高、預金残高と預金元帳の残高などなど、「両者は一致するはず」という相互の数値に何らかの理由で「ズレ」が生じることは一般的です。
 「両者は一致するはず」であるが故に「一致を確かめる必要はない」と考えるのか、であればこそ「その一致を確かめることが肝要」と考えるのか、経営者の内部統制に関する意識の問題でしょう。
 小規模な組織であれば照合する数値も限られますから、月に一度の小一時間くらいの作業の場合も多いはずです。できれば部長や役員クラスの人が行った方が良いでしょうが、税理士等の外部の人に依頼してもかまいません。月次でチェックしていれば、適時に原因が明らかになって、たいした問題にはならなくても、年次でチェックすると原因がはっきりせず、累積的に大きな数値の相違を招くことも希ではありません。

・実地棚卸
 在庫に重要性がない場合は別ですが、できれば半年に一度、最低でも年に一度は実地棚卸を行う必要があります。その際「すべての在庫を棚卸しよう!」という極端な発想は禁物です。あくまで「重要性に応じて」実地棚卸の要否を検討するべきです。
A;棚卸資産の入出庫を記録しておいて、その継続記録の検証のために定期的に実地棚卸をする。これが最も厳密な管理方法です。
B;棚卸資産の入出庫記録はしないものの、定期的に実地棚卸を行い、「期首棚卸数量+当期仕入数量-期末棚卸数量」の算式で、当期の使用量を間接的に算出する。これが中間的な管理方法です。
C;棚卸資産の入出庫記録もせず、また実地棚卸も行わずに、購入した時点ですべて使用したとみなす方法です。重要性がなければ管理は不要なのです。
 重要なことは、自社の取扱商品・材料について、ABCいずれで管理すればよいかを検討することなのです(「こうでなければならない」というルールはありません。一般には重要性が高いものはA、管理不要なものはC、その中間にあるものがBというように分けてみるとよいでしょう)。

・怪しいと思ったときの初動対応が重要
 不正には兆候が見られます。不正実行者の日常生活・態度・帳簿間の相違等、不正発覚前に「何か怪しい」と思われることが多いのです。
 「まさか?」「いやいや、彼に限ってそんなはずはない」という安易な納得は、発覚後「やはり、怪しいと思っていたのに」という後悔に繋がります。
 一方で「あの人は怪しい」という疑いは「おいおい、滅多なことをいうんじゃないぞ」という戒めに繋がることも多いので、せっかくの不正の兆候を見過ごすことも少なくないようです。
 多くの不正事例で感じることですが、「怪しい」と思ったときの初動対応がなにより重要です。初動対応では、不正の事実が発覚していない以上、不正実行者の態度は横柄なことがあります。
 「私を疑っているのですか?」
 「それでは、仕事になりません」
 という抵抗を示しながら、不正を隠蔽しようとすることが多いのです。
 調査側は、不正実行者の「しっぽ」をつかんでいるわけではないので、あくまで冷静に、「別に疑うつもりはないんだが、先日『不正事例研究会のセミナー』を受けて、ちょっと感化されちゃってね」などと言い訳をしながら、チェックすることが必要でしょう。さもなけば、不正の兆候がある以上、ばっさりと「担当者替え」を提案しても、決して不自然なことはありません。
 これらについて、担当者が異常なほどの抵抗を示すことがあれば、それこそが不正の兆候になると思うのです。こうした一時的な混乱は、不正が放置された結果の多額の損害が明らかになることに比べれば、たいした問題ではないのです。不正を早めに発見するには、その割り切りが重要と思います。
 他にも、いろいろと「最低限守るべきルール」の構築と遵守を提案したいのですが、近い将来、書籍としてまとめたいと思っています。また機会を改めて。Taku