2014年3月 日本フェンシング協会 続報

 領収書のねつ造により助成金を詐取したとされる日本フェンシング協会では、全員の理事20名が辞職しました。不正の概要は前回「20142月日本フェンシング協会 滞在費の水増し請求」で扱いましたが、どうしても腑に落ちないことがあり、もう少し調べてみました。

  前回の記事でも指摘しましたが、協会が公表した報告書には、以下の記述があります。別の理事は無償で労務を提供し、又別の理事は1年で1億5千万円を拠出していた」

「国庫の助成も検討されるべき」

また、上記に加えて、個人的な以下の疑問があります。

「何も全員が辞任する必要はなかったのではないか?」

「その後のフェンシング協会の活動に支障を来すのではないか?」

 

確かに「詐欺」といわれてもやむを得ない不正を行ったことは事実なのですが、その不正の問題の程度との「理事全員辞職」のバランスが合っていないような気がするのです。加えて、せっかく強い選手が出てきて、注目の浴びているスポーツとなったにも関わらず、本事件で台無しになってしまうのではないでしょうか?

 

そこで、いろいろ考え直した結果、謎が解けました(ような気がしました)。私の憶測も含みますが、以下で説明します。

 

協会の活動には「先立つもの=お金」が必要です。フェンシング協会では、年間、数億円にも及ぶ活動資金が必要です、会費だけでは「焼け石に水」の状態です。つまり誰か活動資金を負担しなければなりません。

 これを支出していたのが、いわゆる「旦那衆」です。

 相撲界でもそうですが、強い力士には後援会があります。後援会の会長は、地場の経済界のトップの人が「名誉職」のように就任するケースが多いと聞きます。この旦那衆は何故お金を出すのか?その理由は人それぞれなのでしょうが、ほぼ間違えなく言えることは以下の三つです。

 

    お金と時間に余裕があること

 生活に苦しんでいる人は、他人の生活の面倒は見ることはできません。時間も同様です。会社を興して成功した人には経済的な余裕があります。これが「お金を出す」重要な前提条件です。

     様々な人と繋がりがあること

 商売を成功させた人は人との繋がりを重視する人がほとんどです。その人の繋がりのために、「自分のお金が役に立てば良い」と考えているのです。「つきあいだから出そう」「その代わり頑張ってくれ」という感覚があったはずです。

     プライド・名誉職

 お金と時間をかけた選手がオリンピックでメダルを取れば旦那衆は大喜びです。選手も感謝してくれますから、旦那衆は胸を張って選手を連れ歩くことになるでしょう。このためにお金と時間を出していると言っても過言ではないかもしれません。

 

「主要な理事が、自ら経営する会社やその伝をつかって、協賛金や寄付金等を集めていた。」報告書の中の一節です。

 日本フェンシング協会の会長・副会長職の方々は、有名な企業の会長も含まれています。その旦那衆が「フェンシングの振興のため」に一肌脱いで頑張っていた構造が目に浮かびます。

 そうであるが故に、今回の不正の発覚で「理事全員が辞任」につながるわけです。

 せっかく頑張って時間と金を使ってきたのに、逆に不名誉な扱いなどされたら、だれでも「やってられない」と思うはずなのです(もちろん、責任意識の強い方が多いでしょうから、「一度仕切り直しで、全員やめよう」という「けじめ」の現れも含まれるでしょうが)。

 

 前回も書きましたが、今回の不正で最も重要なことは、人員不足も含めて管理体制が不十分だったことです。報告書を読めば、数億円もの金が動いている体制としては、かなり貧弱だったことが理解できます。

 この点、旦那衆=経営者である以上、経理・総務等の事務系の体制が整備されていない限り、事業は絶対にうまくいかないことは、身をもって経験している方もいたはずでしょうし、内部統制の重要性は認識していたはずです(もとより、自分の興した会社ではありませんから、管理体制に対する意識は低かったかもしれませんが)。

 その意味で事務を任されていた事務局長(税理士の有資格者)の責任は重いでしょう。

 補助金を申請する以上、ちょっとした間違いでも役所から五月蠅く指摘されるのは、分かっていたはずでしょう。また一方で、旦那衆も「税理士に任せてあるから大丈夫」と考えていたかもしれません(もしかしたら、選手に金をかける前に、事務局に金をかけるべきだったのかもしれません)。

 

 今回の事件は、日本のフェンシングという一つのスポーツの将来に大きな影を与えています。旦那衆がお金を出さなくなれば、強い選手が生まれなくなるでしょう。その意味で、国が支援する必要が、より強くなるはずです。公費を使うのであれば、役所に説明がつくような資料作りが必要になりますから、管理体制の強化は必須です。決して、旦那衆がポケットマネーで支援してくれることと、同様に考えてはいけません。

 

今後の東京オリンピックの開催を前にして、同様の事件によりスポーツの振興に大きなブレーキがかかるようなことがあってはなりません。

 各スポーツ関連団体は、これを機に、自らの管理体制が十分かどうかを検証する必要があるでしょう。また、スポーツ振興を謳う公の団体も、単に寄付や助成を行うだけでなく、管理体制が十分かどうかについての検証を行うことも必要でしょう。

 いずれにしても、スポーツ関連団体の管理体制強化が進むことを期待しましょう。Taku