2009年11月マザーズ上場も2010年6月に上場廃止 FOI

 以下、本件の経緯を簡単に示します。

 2009年3月期を直前期として2009年11月マザーズ上場(一般投資家から52億円を調達)
 2010年5月に証券取引等監視委員会の強制捜査
 2010年6月に上場廃止

 FOI社の粉飾は、上場してから6ヶ月足らずで上場廃止となった異例な事件でした。
 この異例なスピードは、上場してから180日間は、上場前からの主要株主は株を売却しないという約束(ロックアップ条項)に起因します。ロックアップ条項は、一般に上場直後の大量の株式売却による株価の急激な下落を防ぐことを目的としていますが、証券取引等監視委員会の強制捜査はこのロックアップ条項の期限を睨んで行われたのです。 つまり、ロックアップ条項の期限を迎える2010年5月までに強制捜査を行うことで、大株主の株放出を事前に阻止し、それによる一般投資家の被害拡大を防止することができたのです。
 
 一方、粉飾の手法も注目に値します。
 同社の有価証券届書によると、2009年3月期の売上高は118億円としていますが、ほとんどが架空の売上で、実際の売上高は3億円だったようです。また、同期末の売掛金は228億円とされ、年間の売上高のおよそ2倍の売掛金が計上されていました。
 売掛金が2年間回収されないという常軌を逸した状況に疑問を抱いた方々も少なくありませんでした。
 むしろ、決算数値の異常な動きは、上場審査や監査担当者ばかりでなく、一般の投資家を含め、ほとんどすべての関係者は気がついていたはずです。
 にもかかわらず粉飾に気がつかなかったのは、とても残念なことです。
 売掛金の回収期間が長期にわたることについては、有価証券届出書上それらしい説明がなされていますが、粉飾であることが分かった以上、その説明は根も葉もない嘘だったことになります。その嘘を上場審査や会計士監査が見抜けなかったのです。
 粉飾は2004年3月期から行われていたようですが、架空の売上計上は完成度高い偽造書類に裏付けられており、また書類だけでなく実際に装置を出荷して、別の倉庫に保管するという周到さだったようです。
 さらには、ほとんどが海外売上だったため、海外の偽の取引先に会計士と同行し、通訳に嘘の説明をさせることで会計士を騙したとの報道もありました。

 会計士が監査を行う上で「あれ。なんか、おかしいな?」「ほんとかな?」という疑念や懐疑心は非常に重要です。特に会社側の取り繕うような説明に対して「そういうことなのか。」「まぁ、いいか。」という安易な納得は禁物です。
 特に粉飾が行われている状況下では、首尾一貫して嘘の証言が行われることは稀で、話していることが矛盾することが多くあります。監査報告の期限にばかり意識が残り、本来得なければならない心証を得ないままに意見表明することは厳に慎まなければならないのです。
 粉飾する側も人を騙すことに本気なのでしょうが、監査する側も騙されないように本気にならなければなりません。

 なお、その後2012年2月にFOIの社長と専務は、懲役3年の判決(さいたま地裁)を受けました。
 判決理由で「粉飾率90%超・・・52億円もの資金を集め・・・投資家の信頼を裏切り、証券市場の制度の根幹を揺るがし極めて悪質」と指摘されています。Taku