2010年8月メルシャン(循環取引)

メルシャンといえば、まず「ワイン」を思い浮かべる人が多いでしょうが、メルシャンでの不正取引は、同社の行っている事業とは想像しにくい「水産飼料事業部」で起きました。同事業部は、ブリ、タイ、カンパチなどの養殖魚用に飼料を製造販売していました。

 この不正が発覚したきっかけは、飼料販売による売掛金976百万円が期限を過ぎても支払われなかったことです。原因を究明したところ、これが架空販売であることが発覚したのです。

 同社の調査報告書には図を含めた詳細な説明がありますが、多額の仮装取引に至る経緯を要約すると以下の通りです。

    養殖業者に対する売掛金が回収されない状況が続いている。

    その養殖業者に対して資金を提供する。

    養殖業者は提供された資金をメルシャンに支払う。

やや単純化しすぎた感もありますが、問題は②です。

①の回収されない売掛金を諦めてしまえば良かったのでしょうが、②の資金提供により傷口が大きくなったのでしょう。また、②を単なる資金提供とすることは社内の承認を得ることができませんから、売上取引を偽装することによって資金提供をしていたのです。

というのも、②の養殖業者への資金提供は、養殖業者におけるメルシャンに対する架空売上と、メルシャンから養殖業者への売上代金の支払いによって行われていたのです(さらに実際には、この架空売上は、複数の会社を通じて行っていました)

こうした仮装取引を行う目的は、当初から存在する①の売掛金を回収することにあります。しかし、少し考えれば分かりますが、上記②の仮装取引及び資金の移動によって、当初から存在する①の売掛金は回収できますが、また「別のより大きな問題」が生じてしまうことになります。

「別のより大きな問題」とは③の養殖業者に対する資金提供(仮装した売上代金)です。

これは①の売掛金を回収するためのものですから、①の売掛金の代金よりも②の養殖業者への資金提供額の方が大きい額にする必要があります。要するに問題の先送りです。

さて、メルシャン側から見ると、実際には仕入れていないモノを仕入れたことにしてお金を支払っています。その結果、架空の在庫が計上されることになります。架空の在庫は棚卸によって発覚してしまいますから、これを出庫処理(架空売上計上)すると、今度は架空の売掛金が計上されます。

もともと存在しないモノを仕入れたことにして、さらに在庫として保有したことにして、果ては売上げたことにしているわけですから、冒頭で掲げた976億円の売掛金は回収されるわけはありません。

当初の①の売掛金を損失として認識していれば、大きな痛手にはならなかったかも知れません。①の売掛金よりも多くの資金を養殖業者に回すことで、問題が先送りされ、メルシャン側の損失が多額に膨らんでいった訳です。

冷静に考えれば、こうした取引の仮装や資金の裏提供をすることが不合理なことは容易に理解できるのですが、追いつめられていると何をしでかすか分からないのが人間なのでしょうか。