京王ズホールディングスは、東北地盤の携帯販売代理店で、保険販売やソーシャルゲームの他、介護事業にも進出する企業グループです。
平成23年11月、同社は第三者調査委員会による最終報告書を公表しました。この報告書によると、以下で示すような①利益の過大計上と②社長への資金流出といった問題があったようです。
① 利益の過大計上について
同社では、「売上が少ないから売上の架空計上する」、「利益を捻出するために経費を先送りする」といった典型的な粉飾手法がとられていました。もう少し具体的に示すと、以下の通りです。
・広告告宣伝費等15百万円を当期に計上すべきところ翌期に計上した。
・メーカーからの協賛金を偽装して67百万円の売上を架空計上した。
・焼き肉屋の店舗売上の架空計上24百万円を架空計上した。
・不採算店舗を売却すると偽って固定資産売却益159百万円計上した。
・経費として計上すべき34百万円をソフトウェアに計上した。
・水増し計上した経費12百万円を裏金とした。
こうした数多くの不正経理の内容を見ていくと、「赤字になりそうだから売上を架空計上し、利益が想定外に多いから経費を架空計上する」というように、経営者は思いのままに決算数値を操作していたように見受けられます。
「果たして監査法人は見つけられなかったのか?」と疑問を抱かざるを得ませんが、報告書を読む限り、これらの不正経理は種々の証憑書類の偽装が伴っていたようです。監査法人としても金額的に重要な取引は検証対象にしているはずですし、会社が行っている会計処理と請求書や納品書、社内の報告書や売買契約書といった取引の裏付けとなる資料とを照合してチェックしているはずです。
しかし、これらの取引の裏付けとなる資料が、経営者の指示の下で入念に偽装されている場合には、監査人はこの不正経理を見逃す可能性もあるのです。
② 社長への資金流出
上記①はいわゆる粉飾ですが、②は資産の流用の問題です。②の資産の流用の結果、架空の資産が計上され、結果として①の粉飾と同様に、決算書に重要な虚偽表示がもたらされることがありますが、一般に不正は①粉飾と②資産の流用の隠蔽と二つのタイプに分類されます。
同報告書では、社長による資金流出を以下のように示しています。
敷金、建設協力金名目で197百万円の資金流出があり、そのうち33百万円が返金されています。結果として、差額の164百万円が社外に流出したことになります。
また帳簿外での資金流出が766百万円にのぼり、そのうち692百万円が返金されています。結果として、差額の74百万円が社外に流出したことになります。ここで強調したいのは、上記の資金流出と返金が、おびただしい数の取引によって行われている点です。
「自分の会社からお金を借りて何が悪い。」
「すぐに返すからいいだろ。」
非公開会社であれば、やむを得ない意識なのかも知れませんが、上場して多数の株主、債権者等がいる会社では、こうした意識は許されません。
なるほど、返さないよりも返した方がいいに決まっていますが、無断で会社の金を個人的に使うこと自体が問題視されなければなりません。
上記の他、この資金流出について注目すべき点は以下の通りです。
・預り証等の証憑を偽造して監査法人に証拠として提出した。
・不正に支出した資金は簿外の借入金の返済に充当した。
・建設会社からの返金を装っているが、実際は社長が振込手続を行った。
・実在しない人物との架空の不動産売買契約し、仮装の土地購入代金を不正支出した。
・資金流出の表面化を防ぐため高金利業者から借入を行い、決算期末(10月末時点)の預金の帳尻を合わせていた。
この社長は非常にどん欲な方だったのでしょうか。
目的を果たすためには手段を選ばない姿勢が伺えます。
確かにビジネスで成功する人はどん欲な方が多いようですが、証憑書類を入念に偽装する等、大きく方向感を失ったこのどん欲さには、驚きを感じます。