2012年2月13日 戸田建設は「当社連結子会社における不適切な会計処理に関する調査結果等について」を公表しました。
http://www.toda.co.jp/ir/pdf/toda89_240213_01.pdf
報告書を読むと、当該連結子会社は「重要性に乏しい」「連結から除外される」と示しつつ、総じて「大したことはないんだ」との印象を与えようとしているように伺えます。子会社の役員の処分としても、減俸20~30%の3ヶ月で、副社長と常務が取締役へ降格すると発表しています。
2011年3月期の戸田建設の連結税引後利益は35億円でした。
一方で、今回問題となった対象子会社の2011年3月期末の利益剰余金に与える累積的な影響は21億円でした。なるほど、連結ベースの純資産は、約1,900億円ですから、これと21億円とを比較すれば重要性は乏しいと判断することになるのでしょう。
「粉飾」と「不適切な会計」という用語は、意識的かどうかにかかわらず、区別して使用されているように感じます。「粉飾」というと組織的に財務諸表利用者を欺くための不正であって必然的に影響は大きくなる一方で、「不適切な会計」はそれに至らない影響が軽微な印象を与えます。
本件は、連結子会社内単体では「粉飾」と位置づけられるだろうほどに、その不適切な会計処理が多岐にわたり、またその手法の悪質さを感じます。一方、戸田建設というマンモス企業グループ全体から見ると、重要性に乏しい事件に位置づけられるのかも知れません。重要かどうかは、要するに一定の視点を伴うわけで、相対的に判断されているわけです。
さて、同報告書にて示された「不適切な会計」の手法は以下の通りです。
(1)売上の繰上・繰延
完成工事について引渡未了物件を売上計上する一方で、多額の損失が見込まれる工事を繰延処理していた。
(2)原価付け替え
複写伝票のゴム印操作や二重帳簿とも言うべき工事月報により原価付け替えにより各工事の損益を操作していた。
(3)完成工事未収入金の回収不能見込額
口約束により施工したが結果的に代金の回収ができなかった、もしくは架空の売上により決算数値を操作していた。
(4)未成工事仮勘定を使った費用の繰延
完成工事に配賦されるべき人件費やその他経費が配賦漏れや、完成工事未収入金から未成工事仮勘定へ振替える不適切な会計処理があった。
(5)上記の他、減損会計未実施、繰延税金資産の過大計上、役員退職慰労引当金の計上遅れ、積立保険料の費用計上漏れといった種々の会計上の問題が指摘されています。これだけ悪質な会計処理が多岐にわたっているにもかかわらず「不適切な会計」と位置づけられることに違和感を感じます。
むしろ「連結子会社における『粉飾』が明らかになったが、グループ全体からすれば重要性はない」との位置づけの方が納得がいきます。
重要性の判断は難しいです。当然のことですが、量的に重要性が無くても、質的に重要な場合もあります。
「大した問題ではない」との姿勢は、また同様な不適切な会計が発生する原因とならないか。
「多かれ少なかれ、みんなやっていることだ」と、不適切な会計を正当化する企業風土とならないか。
本稿を書きながら、建設業界に長い学生時代の友人が言っていたセリフを思い出しました。
「会計士を騙すなんて簡単だ。やるかどうかは別としてね。」
こうした考えが会社に蔓延しているとしたら・・・。なかなか厳しい見解です。Taku
ちなみにその後、戸田建設は、内部統制報告書(2009年3月期)の訂正報告書を提出しました。
これによると、連結子会社の不適切な会計処理について、戸田建設のグループ管理体制にも不備があった、として、2009年3月期の同社の内部統制について、従来は「有効」としていたところ、「財務報告に係る内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼすこととなり、重要な欠陥に該当・・・内部統制は有効でないと判断いたしました」と、訂正しています(加えて、有価証券報告書、四半期報告書についても訂正報告書を提出しています)。
あくまで「重要性はない」と押し切ることはできなかったようです。Taku