2012年12月 TOW 売上の架空計上

各種イベントやセールスプロモーションなどの企画制作・運営を主たる事業とする株式会社テー・オー・ダブリュー(東証一部上場;以下、TOW)は、売上の前倒し計上、架空売上等の「不適切な会計処理に関する社内調査結果について」を公表しました。

以下、その概要を示します。

1.不正の手口

この不正は不正実行者の単独犯とされ、社内ぐるみの粉飾とはされていません。

具体的には、「注目されたい・大手クライアント担当チームを見返したい」(本人インタビュー)と考えた不正実行者(チームリーダー;201212月付で懲戒解雇処分)が、売上の前倒し計上や費用の先送り計上、売上高の架空計上により、不正実行者が担当する案件の業績を良く見せかけていたものです。

2.不正の影響額

不正が始まった平成20096月期における損益に与える影響は21百万円、翌20106月期は35百万円となり、さらに20116月期には41百万円となります。年度追うごとに不正金額が大きくなっていくことは良くあることです。これが20126月期に139百万円と跳ね上がります。これらを合計すると235百万円。税引後の当期純利益では147百万円の影響額です。

ちなみにTOWの直近(20126月期)の連結売上高は14,033百万円、当期純利益は597百万円、純資産は5,340百万円でした。

同社は本事例に起因して過去の決算を遡及的に訂正するとともに、内部統制報告書を下記の通り訂正しています。

「下記に記載した財務報告に係る内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼすことになり、開示すべき重要な不備に該当すると判断しました。したがって、・・・当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断しました。

 平成2410月に、当社の管理本部における滞留売掛金調査の過程で、回収できない売掛金が存在することが判明し、これを契機として当該担当者より聴取する等の調査を進めたところ、売上高の過大計上及び売上原価の過少計上といった不適切な会計処理が行われていたことが判明いたしました。・・・後略」

 

3.不正の発見

 今回の不正事例の発覚が遅れた要因は、不正の対象となった案件が会社にとって新規事業であり、既存の業務と同様の内部統制の取り扱いでは不正が発覚しにくい状況にあったこととされています。

 具体的には、不正対象案件は多品種少量の案件の集合であり、1件当たりの受注金額が小さく個別の原価管理が煩雑となるため、半年分の案件をまとめて管理していたものです。その結果、その中の個々の業務に係る売上を前倒し計上したり、原価を先送り計上したりしても、膨大な取引の中に異常性が紛れてしまい、判別不能な状況だったというのです(逆に、1件当たりの受注金額が相応の金額であれば、個々の案件ごとの売上高や売上原価の対応関係にある異常値に起因して、不正が発覚しやすくなります)。

 この他にも、「不正実行者に本取引に関わる業務を一任していたこと」や「新規業務についての知見が上司になかったこと」といった不正が見過される一般的な要因も指摘されていますが、最も大きな要因は、新規業務(本件では多品種少量の業務の請負)に対する固有の内部統制の検討・構築がなされず、既存の業務と同様の内部統制の取り扱いとしていたことにあったようです。

 それでも不正が発覚したのは、不正実行者の不正の手法が「大胆」になったからです。

売上の早期計上や原価の付け替えは「期ズレ」の問題で、実際に発生している売上や原価の計上時期を操作しているにすぎませんから、営業成績の仮装にも限界があります。

そこで不正実行者は「最後の手段」として「売上高の架空計上」に手を染めるに至ります。不正実行者は注文書を偽造して取引が実在しているかのように装い、また支払確約書を偽造して回収見込みがあるように仮装していました。

発覚は時間の問題という状況ですが、不正実行者は必死に隠ぺい工作を行っていたことになります。もちろん、架空計上された売掛金は、誰かが代わりに支払ってくれない限り、入金されませんから、最終的には入金遅延が社内で問題視され、不正実行者が不正を自供するに至りました。

4.大きな疑問点

 不正の初期の期ズレ操作の際には、「ちょっと魔が差した」程度の意識だったのかもしれませんし、関係書類を偽造して売上の架空計上までしよう、とは思ってもみなかったはずです。当初から管理体制を充実強化していれば、こうした不幸な事件は未然に防げた?かもしれません。

 しかし、この事件、大きな疑問点が一つ残ります。

 それは振込人の判明しない入金39百万円があることです。

TOWでは「将来において返還請求を申し出た真の振込人に対して返還すべく仮受金として計上する」こととしています。

振り込み詐欺とは逆に、「どこのだれか知らない人間が振り込んでくれた?」

そんなはずはないでしょう。

私も含めて事情の知らない人はそのように考えるのが自然に思えます。むしろ、この振り込みと今回の不正とに、何らかの関連があることは間違いないように思えて仕方ありません。例えば、不正実行者がX社名義で振り込んだ(不正実行者の水増し請求等でプールしておいた資金からの入金(この場合、不正実行者は他にも不正を行っていたことになります。))?とか、当該不正に絡んだ外部の協力者からの入金?とか、いろいろと想像をしてしまいますが、ゲスの勘繰りの域を超えません。本当のところを知りたいですね。Taku