野村マイクロ・サイエンス 2012年1月 材料費の付け替え

 野村マイクロ・サイエンスは、2012110日、社内調査委員会の報告結果を公表しました。
 この不適切な会計処理では「材料費の付け替え」が問題となりました。
 同社では、発生した原価を個別の案件ごとに集計する「個別原価計算」を採用しており、その計算の中でA案件の原価とすべきものをB案件の原価に付け替えていました。その目的は案件ごとの損益を平準化することにあったようです。
 「原価の総額が変わらないのだから大きな問題はないのでは?」
 と思われるかも知れませんが、そうではありません。
 問題は「工事損失引当金」の計上と「工事進行基準」という収益の認識基準です。
 
 「工事損失引当金」は、赤字が見込まれる工事については、予めその赤字を損失として見越し計上するものです。A案件の原価とすべきものをB案件の原価に付け替えることで、本来A案件は赤字が見込まれるはずなのに、赤字が見込まれないものとして扱うことができます。その結果、A案件について計上すべき工事損失引当金を計上しなくてすむわけです。

 また一方で、「工事進行基準」は工事の進捗割合に応じて売上を計上する方法で、その進捗割合は原価の発生割合によることが一般的です。
 例えば、見積り総原価100百万円(売価150百万円)の工事について、今期50百万円の原価が発生した場合、工事進捗割合を50%(=発生原価50百万円/見積り総原価100百万円)と考え、これに売価150百万円を乗じた額(150百万円×50%=75百万円)を売上高とする方法です。
 この方法によると、実際に発生していない見積り原価をA案件からB案件に付け替えることで、A案件の見積り総原価を小さくして、工事進捗割合(発生原価/見積り総原価)を高めることができます。その結果、A案件について計上する売上高を増額させることができるわけです。

 このように会計上の見積りに係る問題は、大したことがなさそうな問題に見えながら、実は根深い問題となる可能性があります。同社の20113月期の連結財務諸表では、売上高49百万円減少、売上原価243百万円増加となり、売上総利益及び経常利益は292百万円減少する修正が必要になるようです(未監査情報による;今後訂正報告書を提出する見込み)。
 修正前の経常利益が1,000百万円であり、修正後の経常利益は708百万円となりますから、実に3割弱の経常利益が過大に計上されていたことになるのです。

 この費用の付け替えは、取締役専務執行役員の指示で行われていました。これは経営陣自らが予算統制制度をないがしろにするものであり、決して許されることではありません。ある項目の予算が不足しているときに、予算に余裕の或る項目に費用をつけ替えることが認められる、と従業員が知れば予算統制の実をあげられないのは明白です。取締役専務執行役員の行為は、会社風土の形成に多大な悪影響を与えるものであり、不正のしやすい環境を作リ出すものです。

報告書は予算統制のあり方への言及がなく、また当事者の取締役・従業員の処分も公表時に決定されていないこともあり、問題のとらえ方と責任追及の時間感覚に今後、会社が健全な道を歩めるのか、つい心配してしまいます。