2013年11月 雪国まいたけ。不適切な会計処理の具体例

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 前回も指摘したとおり、今回の仮装経理は、2012年3月期の違法配当の問題も含まれますから、今後の法的な動向も気になります。
 しかし、本稿では以下の①~③の具体的な「不適切な会計処理」に焦点を絞って検討しましょう。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 それぞれ、どのような会計処理だったのでしょうか。監査上の対応をも含めて検討します。

 

①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
 これは1995年まで遡る「昔の話」です。
 社内の関係者に対して事情聴取するにも、既に退職しているか、又は記憶が明確でないため、具体的経緯は不明な点が多いままのようですが、同報告書で示されている以下の事実関係からすれば、あるべき会計処理はハッキリしています。
 同社は1995年から関西地区の生産・物流拠点とするため、近江八幡市の土地開発を進め、716百万円を外部の会社に手付金等として支出し、建設仮勘定としていました。
 ところがその後、3年後の1998年にこの進出計画を中止します。
 この時点で、上記の建設仮勘定の回収可能性を検討して、回収可能性がなければ全額損失とする必要があったわけです。しかし「リーダーシップの『暗黙』の重圧」により、業績を仮装するために建設仮勘定のまま未処理とし、その後、まったく別案件の土地開発に上記の建設仮勘定716百万円を土地として忍ばせた形としたのです。
 旧来の土地開発と今回の土地開発とに関連性がない以上、両者を同一視して土地勘定に計上するのは問題があります。正に仮装経理です。
  なお監査法人は、2005年3月期に変更しており、当該建設仮勘定710百万円の処理については、会社は特に監査法人に説明をせず、また監査法人の引継事項でもなかったので、問題にはならかったようです。
 土地勘定は減損の対象にはなりますが、そもそも時価で評価するものではありませんし、特に昔の会計処理について、過去に遡ってその当否を検証することには限界がありますから、会社側が特に説明をしない限り、本件を問題視することは困難だったかもしれません。

 

②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
  減損損失の認識に際しては、金額的にも重要なケースが多いだけでなく、将来の利用見込や将来キャッシュ・フロー見込等の将来の事象に関連するため、主観的判断や恣意性が介入しやすく、会計上も監査上も慎重な判断が必要とされます。
 この点、同社の報告書では、減損会計導入時の減損処理の要否の判断に誤りがあったとし、「日高配送センター及び日高工場(81百万円)」と「西新宿YMビル(344百万円)」については、当時の利用状況や、その後の利用目的などからして、平成18年3月期に減損処理すべきところ、これを減損処理していなかったとしています。その後、毎期、減損の要否を見直すとして、2014年3月期の第1四半期末までの累積で470百万円の減損損失の過小計上(これに伴い減価償却費の過大計上11百万円)がなされているとしています。
 監査上も相応の検証を行ったと思いますが、同報告書では、監査法人に対しては、減損回避のため具体性を欠く将来の利用見込の説明等を行っており、また、一時しのぎの利用実績を仮装したり、固定資産の活用方針を取締役会で取り上げたりしていたとの指摘もありました。
 この辺りの記述から、社長を始めとして取締役会全体が減損回避措置を講じていたことになり、組織的な粉飾の疑いが色濃く感じ取ることができます。

 

③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記2つ以上に不透明さが拭えないのが本件です。
 「不当な繰延処理180百万円」としていますが、実際の広告宣伝に係る契約金額は733百万円でした。会社はこれを契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していましたが、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきでした。
 同社の2011年3月期の経常利益(連結)は906百万円(黒字)に照らして、本件の契約金額は733百万円は、相当多額です。また「社長がリーダー先頭指揮して進めたプロジェクト」とされていますから、なおさら「重要なプロジェクト」だったはずです。
 ところが、報告書の以下の記述を見る限り、社内の管理資料の保管も不十分で、上司から担当者への指示も杜撰でした。この不合理さが最も気になるのです。
 次回は、上記の広告宣伝費にかかる報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用して、その不合理さを検討しようと思います。今回は、久々の大作になりました。Taku