2013年11月 雪国まいたけ。不適切な会計処理の具体例(広告宣伝費)

 前回に引き続き、「雪国まいたけ」の不適切な会計処理について検討します。
 今回、違法配当の問題も絡んでいますが、具体的に問題となった「不適切な会計処理」は以下の三点でした。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 本稿では、上記の③に焦点を絞ります。

 

 ③の問題は、広告宣伝に係る契約(733百万円)について、会社は契約期間である30ヶ月(24百万円/月×30ヶ月=733百万円)で按分計上していたところ、本来は具体的な作業の大部分が完了した2012年3月期に費用計上すべきとされています。
 この点について、同社の公表した報告書の記述の抜粋(一部要約)を引用し、それに個人的なコメントを付すことで、その不合理さを検討します。

 

「当社に保管されている契約書(写し)では、具体的な業務の内訳と対価の対応関係は記載されていない」
→(コメント)
 何億ものお金を支払うのに具体的な業務内容と対価の対応関係がハッキリしないのは不合理です。むしろそれが分かると一括費用処理が求められるから、隠蔽されたと考えるのが合理的ではないでしょうか。今回の社内の調査では、広告代理店であるD社からの当時送信されたメールデータでその内容を確認したようですが、なぜ契約当時に、具体的な業務の内訳と対価との対応がハッキリなかったのか、理解に苦しみます。

 

「広告宣伝に関しては、社長がリーダーとして先頭指揮して進めたプロジェクトであるが、担当者は、分割計上を前提に画策したものと認められる。担当者の行動は、経営者のトップの意向を付度し無理でもそれに応えようとしたものと考える」
→(コメント)
 この辺りの表現は読み手を誘導しているように読めます。
 「経営者のトップの意向」は「分割計上であり、一括計上ではない」ことは、明記はされていませんが、確かでしょう。この点、読み手が知りたいのは、「末端の担当者がどのように考えたのか」ではなくて、「社長から『分割計上』に係る直接的な指示があったかどうか」です。少なくとも社長からは細かく事情聴取しているはずですから、「社長が直接的な指示を行っていないことは明らかである。」と記述することもできたはずです。それを明記せずに、暗黙裏に上記記述に留めたのは、「嘘は書けない」という心理が働いたからと考えるのは、考えすぎでしょうか。
 いずれにしてもこの記述からは、未だに前社長に大きな影響力があると感じざるを得ません。

 

「広告宣伝費の処理に関しては、・・・担当者任せに行われ、上司・・・の確認手続きがなされなかったことにより不適切な会計処理を見落とす結果となった」
→ この記述が最も不合理に感じました。
 社長案件でプロジェクトが進んでいるにもかかわらず、末端の担当者が独断で会計処理を決められるはずはありません。逆に末端の担当者が、あるべき会計処理として2012年3月に733百万円の広告宣伝費を「一括計上」し、赤字幅がさらに大きく膨らんだとしても、それも見落とす結果となったのでしょうか?どうなんでしょうか?
 会計処理を考慮することなく、733百万円もの契約をする経営者はいません。
 「会計処理は担当者に任せていた」では、筋が通るはずはないのです。

 

 最後に同社は、上記の問題を公表する前に、2012年3月期に大幅な赤字転落した原因を三つ示していますので、それを紹介します。
・東日本大震災による風評被害
 →確かに風評被害は、現在、将来に係る、社会・経済問題です。
・ぶなしめじ工場の立ち上げ
 →新規工場の立ち上げは、多くが固定資産計上されますが、人件費等の経費もかさむことから、確かに業績に与える影響は少なからずあったのでしょう
・過去の決算における黒字決算の維持の反動
 →これはどうでしょうか?
 「黒字を維持するため」→「費用とすべきものを資産としていた」ということです。
 この三つ目の理由は、そもそもが粉飾していたことを認めているような記述に読めてしまうのですが、皆さんはどのように感じるでしょうか?
 なお、全然関係ないかもしれませんが、同社は、2013年3月期に固定資産の減価償却方法に係る会計方針を定率法から定額法に変更しています。Taku