2013年7月 ハマキョウレックス元従業員の架空売上

 物流業のアウトソーシングを手掛けるハマキョウレックス(東証一部)は、当社元従業員による不正行為に係る調査結果について」を公表しました。

同報告書では①元従業員2名による架空売上計上(20084月~20133月の5年間の累積で1,043百万円)及び②取引業者を利用した着服(200911月~20135月までで29百万円)を明らかにしています。ちなみに同社の平成253月期の連結売上高89,319百万円、同経常利益6,332百万円から比較すると、その財務諸表に与える重要性は低いようにも思えます。一方で、①の架空売上計上について、その全額(1,043百万円)が滞留しているとすれば、20133月末時点の連結上の「受取手形及び売掛金」が12,850百万円、単体の「売掛金」が5,185百万円ですから、滞留売掛金の割合の高さからして、一概に「重要性なし」と判断するのは、難しい面もあるかもしれません。

 以下、①の架空売上と②の取引業者を利用した着服行為とに分けて不正防止策を検討しましょう。

 

 まず①の架空売上ですが、これは売掛金の滞留原因の究明により発覚したとされます。

 不正実行者は、自己の業績不振を隠すため、正規の請求書とは別の請求書を捏造して、嵩上げした売上高を経理部に報告していました。当然、請求金額と入金金額とに差異が生じることになりますが、不正実行者は「取引先C社の検収手続のタイミングのずれ込み」等、巧妙な説明・操作により、不正の発覚を免れていたようです。

 不正実行者が「センター長」という役職者であって、かつ請求書発行事務を一任されていたことに加え、当初予算が達成されて前年度対比の計数的にも異常を感じ取れない程度の偽装であったことを踏まえると、5年もの長期にわたり発覚が遅れた要因として頷ける面はあります。しかし、長期間発覚しなかった問題は、もっと単純な話なのかもしれません。

 多分に滞留売掛金は、時の経過に従い増大していったでしょうし、「検収手続のずれ込み」という比較的単純な理由について、「本当か?」と疑問を抱いた関係者も多くいたはずでしょう。その疑問を抱いた関係者は、どこまで大騒ぎしたでしょうか?むしろ「まぁ、そういうならば仕方ない」と安易に納得した関係者も多くいたのではないでしょうか?

 「約定通り入金されない」という異常を安易に納得した関係者は大いに反省すべきでしょうし、特に「おかしい」と思った場合には、管理部門の主導の元で得意先に残高確認を行う等のルールを整備・運用すれば、こうした不正は早期に発見できたことでしょう。

 

 また、②の取引業者を利用した着服については、上記①の架空売上の計上の調査中に、当該不正実行者によるリベート等の金銭のやりとりが発覚したようです。

 雑草の手入れや清掃業務等の発注業者に対して、実態のない作業を捏造して会社宛に請求書を提供させ、正当な作業経費として支払った金銭が不正実行者に還流させる不正は典型的な事例です。

 こうした不正を行う輩は、社内の管理体制の不備を把握しているケースが多く、最初は恐る恐る不正の実行をしつつも、次第に大胆になっていくようです。本件も、既に売上高の仮装計上という不正に手を染めた人間が「どうせ見つからないだろう」とタカをくくって不正に及んだものと推定されます。こうした不正には、請求書や領収書と行った証憑書類のみでなく、作業の事実を示す資料(作業工程表や作業完了を示す写真等)のエビデンスを充実して貼付させることを普段からうるさくすることが肝要です。「うちの事務は、うるさいからな」という雰囲気を作ってしまえば、こうした不正はかなりの割合で防止できるはずなのです。

 

 最後に、同社の公表した「当社元従業員による不正行為に係る調査結果」について、往々にして、こうした公表物は冗長になりがちなのですが、本調査結果は端的で読みやすいと思いました。同報告書からにじみ出てくる誠実さからすれば、今後、同社では同様の不正はきっと生じないのではないかと思いました。だだし、惜しむらくは、同報告書内の「第Ⅴ改善提案」は、その分量が多く、何が最も重要な改善提案なのかがハッキリしないところが残念ではありますが。Taku