私たちが行う質問は、ヒアリング(尋問・訊問)ではなく、インタビュー(面接・面談)です。

   会計監査の現場では、10余年前からクライアントからの聞き取り調査・クライアントへの質問を”ヒアリング”ではなく、”インタビュー”という言葉を用いるようになりました。この変更には、次のような背景があると理解しています。


 和訳すると、”ヒアリング”は、”尋問・訊問”。”インタビュー”は、”面接・面談”です。単純に言えば、尋問は、聞きたいことを問いただすこと。対して面接・面談は相手が真実と思うことを限定法ではなく広く聞き出すための手法です。 英国において、犯罪捜査にあっては証言が決定的に重要であることから、いかにして信頼性の高い情報を得られるかを研究した成果が、捜査面接法(investigative interview)です。ここですでに被害者、証人のみならず被疑者に対しても尋問(ヒアリング)ではなく、面接・面談(インタビュー)という言葉が用いられているのです。 

そして、面談において重要なのは、初めにラポールを構築することが、強調されています。 ラポールはもちろんNLP(Neuro Linguistic Programming神経言語プログラミング)理論で用いられていた言葉です。ビジネスでは相手と信頼の架け橋をかけない限り、営業はすすまないと言われた言葉です。


 犯罪捜査においてさえ、用語がこのように変わった以上、通常人から話を聞くことについて、もはや”ヒアリング(尋問)”は使えず、”インタビュー(面談)”になるのは当然のことと思っていました。 ところが、事業仕分けでは”ヒアリング”と盛んに言われ、さらに大阪市長になった弁護士の橋本徹氏も就任に当たり、市役所幹部に”ヒアリング”を行う、と”ヒアリング”が広く用いられ、マスコミもその用法に自覚はないようです。さらに、弁護士で公認不正検査士である高名なブロガー自身のホームページに、「ヒアリングに基づく企業調査」とあるのを見て、ひっくりかえってしまいました。

 弁護士が”ヒアリング”という用語につき、知らないとは思えません。知っていながら使うのは、意図があるのか、それとも単に言葉は慣習や惰性で使われる故だからでしょうか。

 

 福島第一原子力発電所について、昨年12月以来、”冷温停止状態”などというマヤカシのキッカイな言葉が跋扈しています。普段、正確に言葉を使っていないことが招いた、国際的にも無責任な事態です。弁護士や会計士を問わず専門家には、職業倫理的にもその言葉の意味を十分理解して正確に使っていくことが、まず求められます。

 

 私たち、中里会計事務所が行う聞き取り・質問はヒアリングではなく、インタビューです。                                                                                            Tetsu