大王製紙前会長 バカラ賭博で大損

 

20123月、大王製紙の前会長の初公判がありました。

検察側は冒頭陳述で、前会長は5,530百万円もの資金を子会社から無担保で借入れ、そのうち4,380百万円をカジノで使ったと主張しました。「なせ、そんな巨額になってしまったのだ?」というのが一般的な疑問でしょうが、ギャンブルに熱くなる心理面からすれば、その解答は簡単なモノです。

 株主、従業員に多額の損失をもたらし、社会に重大な影響を与えた本事件を、ギャンブルに熱くなる心理面から、冷静に検討してみたいと思います。

 

大王製紙の前会長が「はまった」のは、バカラ賭博です。

バカラは簡単に言えば、洋風の「おいちょかぶ」で、ディーラーがカードをプレーヤーとバンカーと二方向に配り、いずれが9に近いかをかける非常に単純なゲームです。

丁半博打もバカラも基本的に二者択一で勝負するわけですから、1回の勝率は5割です(厳密にはバカラの場合、バンカー側が勝利した場合は5%のコミッションが取られます。)。

この手の博打は、賭け続ければ当然に買ったり負けたりしますし、一定額を平坦に賭けて遊んでいる分には、特に大きく負けたり、勝ったりすることはありません。

そこで、大きく勝つために、「勝負所」を決めて、そこで一時的に掛け金を大きくすることが一般的に行われているようです。

重要なことは、その「勝負所」の勝負運ではなくて、「その勝負の後」の心理面だと思います。

仮に、その勝負に勝った場合には、「まだ行ける」と賭け続けるのか、「儲けたからやめる」と手仕舞いするのかの二者択一です。一方で、仮にその勝負に負けた場合には、「こんなはずはない。もう一回勝負!」と賭け続けるのか、「仕方ない。もう負けた」と手仕舞いするのか二者択一です。

「まだ行ける」と賭け続ける人は、結局は負けるまで賭け続けるでしょうし、「こんなはずはない。もう一回勝負!」と賭け続ける人は、当然に負けが大きくなります。

要するに、勝っても負けても賭け続ける人は、絶対に負けるのです。「幾ら勝ったら止めるのか」「幾ら負けたら止めるのか」という着地点をハッキリさせない以上、賭けること自体が目的となって、負けるまで賭け続けてしまうのです。

前会長は、一時的に勝ったかもしれませんが、その勝った分も含めて負けるまで賭け続けたのです。

4,380百万円。

大変な金額です。

通常の人はそんな金額まで賭け続けることはできませんが、前会長はその金を引っ張ってくることができたからこそ、そこまで賭け続けることができたのです。さらに言えば、もっともっと借り入れることができたなら、より多額になっていたはずなのです。

加えて通常の人は、「ギャンブルなんて馬鹿馬鹿しい」と早い段階で気がつくのですが、不幸なことに前会長は気がつかなかった、というのが非常に単純な答えなのです。

以下の前会長のコメントはその証左です。

国内のバカラでは不正が行われているから負ける。海外なら不正が行われていないから勝つことができる。

まともな発想なら、「国内で負けるなら海外でも負ける」と考えるでしょうし、負ける原因が自分でなく、他にあると考えること自体が大きな過ちでした。

そして、なによりも前会長は、自分自身が「不正」を行っているのであって、他の人の不正をとやかく言えるはずもなかったのです。残念です。

 

それでは、この前会長の暴走は、どのように防止することができたのでしょうか。

前会長本人の責任は当然としても、その周りにいる人間はどこまで気がついていたのでしょうか?創業家の御曹司である以上「何もいえない」と見て見ぬ振りをしている人はいなかったのでしょうか?前会長に苦言を呈する人はいなかったのでしょうか?

創業家の絶対的な支配がある以上、他の役員、管理職は何も言えなかったことは、やむを得ないことだったのでしょうか?

20113月期の有価証券報告書に前会長への貸付があることは、会社が公表しており、周知の事実になっているにもかかわらず、「20119月に巨額借入が表面化した」とする会社側の説明は正当なのでしょうか?

こうした様々な疑問は、今後の公判で明らかになっていくと思います。

 

なんとも不幸な事件ですが、背筋を伸ばした姿勢で地裁に入っていく前会長の姿は堂々としており、印象的でした。Taku