e-Tax は、誰のためのシステムか?

確定申告の季節です。今年、始めて国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用しました。数値を入力すると、税額を計算し、確定申告書を作成してくれる便利なシステムです。今まで、自分でEXCELにIF文やらVlookUp関数やらを駆使して、作成していたのがまったく不要になったのは感激でした。

初めて利用される方へのおすすめは、初めからe-Taxを利用するのではなく、書面提出を選ぶことです。電子証明控除が(最高4,000円)を受けられるかの計算結果を見た上で、電子証明書の取得・カードリーダーの購入等に時間とお金をかける意味があるのかを判断した方がよいでしょう。

 

使用しながらこのシステムが10年ほど前に話題となった国税総合管理(KSK)システムの一環だった、と思い起こしました。KSKシステムは、1980年金丸信自民党副総裁の一言でグリーンカード導入を止めたときに朝霞に建築中の施設などを利用するということで、開発されました。その開発費は当初の7倍の3,000億円となり、文祥堂がインテグレーターとして相応しいかということが、マス・メディアをにぎわしたこともありました。2年ほど前には、事業仕分けで取り上げられ、年間経費が359億円、うちランニングコストが275億円かかっている巨大なシステムです。

 

 これだけ投資されているシステムなら、さぞ使いやすいシステムになっているのだろうと、期待を込めて、少しばかりいじってみたところ、気づいたのは次のようなアラでした。

 

1.始めの画面には、初めて利用する人のために、質問書形式による申告書作成が用意されています。

 これはわかりやすいと質問に答えていくと、出てくる給与所得の入力画面は「申告書を作成する」を

選択した人とまったく同じなのです。例えば、医療費控除に「いいえ」と回答入力していても、医療費控除のボタンは、グレーアウトしません。「いいえ」と答えたものは申告に関係ないのですから、グレーアウトするのは普通のことでしょう。連動して作ろうという発想がないのか、開発費がまだ足りないのか。いきなり、このシステムは誰を対象にしたシステムなのだろうと、考え込んでしまいました。

そういう目で見ると、

2.給与所得は、源泉徴収票の見本から該当項目を入力するようになっていて、わかりやすくはなっています。でも、なぜ源泉徴収票と同一の画面にして、「手元にある源泉徴収票の金額をその通り、入力してください。」としないのでしょう。確定申告手続きの敷居を低くすることへのこだわりは見えてきません。

 

3.これは結構深刻な問題です。

入力内容に矛盾があると、「入力内容を確認する場合は”OK”をクリックしてください、入力内容に誤りなければ”キャンセル”をクリックしてください」という警告がポップアップされます。どこに誤りがあるかについての検証を促す画面は、出てこないので、この警告がでたら専門家以外は、途方にくれることでしょう。用語について、説明のあるQ&Aも知りたいことに答えているとは言えないところもあります。

 

4.他にもファイル保存時にファイル名を変更して保存できない等、細々したことがいくつかありました。

利用している人は、もっといろいろと不便を感じていることだろうと思うのですが、ネットを見るとそのような意見はあまり見かけないのが不思議です。

 

 事業仕分けの議事録を見ると、SEが人月139万円等の質疑があるのですが、3E(Effectiveness,Efficiency,Economy=有効性、効率性、経済性)の観点からシステムを再点検するには至っていません。

ITアーキテクチャーは、毎年制度変更がある等、税制特有の事情に適合しているのか。ハード、ソフト、ネットワーク等々は適切に運用されているのか。何より、納税手続きは納税者自らが税務当局に毎年の所得を申告し、納税するという、「申告納税」が原則という観点から、納税者に使いやすいシステムとなっているか等の有効性についての議論は行われていません。

 

ここはNPM(New Public Management)の第一人者である会計検査院のM検査官に期待して、投資効果の検証をお願いすることにしましょう。Mさん、よろしくお願いします。

Tetsu