沖電気海外連結子会社の不適切な会計処理に関する調査報告書についての感想(続き)

3.観点が違う

OSIB社に問題ガあることを沖電気工業㈱(以下、「OKI」と記載します。)が認識した時点は、OKIの理事であり、欧州販社統括本部のトップが、同社の副社長及び常務が出席した会談の場で次の事項を報告した2011年6月3日であると、報告書は認定しています。

・売上債権の回収期間が長期化していること

・ディストリビューターに対するる売上債権が実質的には資金支援目的の貸付金となっていること

・ファクタリングが実質的に長期固定化理入れとなっていること・ディストリビューターにおける在庫の約3割が再販不可の可能性があること

・テレビ事業で、販売代理店であるQ社に対する債権の回収可能性に懸念があること

 

これに関し、OKIの副社長らが不適切な会計処理につながるとの認識を欠き、報告は信用できないものと判断し、、事件の当事者である会社(OSIB社)のトップからの報告の方を受け入れたのは、適切な判断とは評価できない、と報告書は指摘しています。さらに、その後の調査報告により2011年12月までには100%子会社でありプリンタ事業を司る沖データ㈱の社長が問題の深さを認識していたことを指摘しています。ところが、内部統制の要素である情報と伝達に関する役員との関係での問題は、監査役とのコミュニケーションの迅速性の欠如にあると言うのにどまるのです。OKIの副社長や沖データの社長、さらには経理部長、財務部長の誰一人として問題をOKIの社長に報告しないことについて、報告書はまったく触れていません。まして、取締役会の議題として取り上げられなかったことに言及があるはずもありません。悪い情報ほど迅速にトップに伝わる体制、取締役会で審議する体制あるいは風土があることが、情報と伝達の要諦です。トップは悪い話には耳を傾けないタイプであったのか、単に副社長などの関係者が漫然と放置したのか、報告書での言及はありません。
さらに報告書は隠蔽は意図していなかったとして故意ではなかったことを認める一方、認識の不十分性や対応の不適切性など、関係者の過失を指摘していますが、責任追求にまでには至っていません。2012年8月8日までに何ら情報を得られないために株式を購入した投資家への配慮が見られません。2011年3月1日の終値87円から株価は上昇し、3月30日には125円となり、4月26日は8月8日までの最高値138円を記録しています。2012年3月期の決算短信が発表された5月9日後の最高値は131円です。迅速な調査と報告がなかったことにより、損害を被った投資家がいるのです。会社役員として投資家に負っている責務の観点から、取締役会等が機能しているかは、大事な観点です。報告書に言及がないのは残念でなりません。

 

4.発想が違う

内部監査について報告書は、事件を起こしたOSIB社には内部監査室がなく、沖データ㈱の内部監査室が2008年7月に初めての監査を実施したが、往査期間は2日間と短く、実施手続はヒアリングが中心であり、特段の問題を認識することなく監査を終了し、これ以降内部監査は実施されていない、と指摘しています。これを受け、内部監査室の人員数が著しく不足していること、リスク・ベース・アプローチに基づき監査対象会社を選定するなど、実効性のある内部監査体制を構築する必要がある、と提言しています。内部監査を実施するに当たっては事前の計画が重要なことは論を待ちません。まして初めて行く会社についてはどのような目的で何を調査するのかを検討し、限られた時間の中で目標を達成するためにはどのような方法で行うかを決定した上で監査を行うのが、一般的方法です。インタビューを中心に行ったという記述からは、どのような目的・計画のもとに行われた監査であるのかが、わかりません。計画については、本委員会の調査対象外であり、事実を知らないままに検討するのは避けたいのですが、それでも現行の監査室の水準に問題を感じます。このような状況では、いたずらに人員を増やしても問題解決にはなりません。会社は財務諸表への影響額を指摘の通り受け入れたように、ただ指摘を受け入れることはないと思いますが、必要性を十分吟味した人員配置を考えるよう期待します。


5.公認会計士として

報告書を読んで得た監査手続における具体的教訓は次の通りです。いずれも基本的監査手続に過ぎませんが、監査目的を明瞭に意識し、手続に不備があれば、大事件になりかねないことを意識して監査に当たらなければ、とつくづく思います。

ア.銀行への確認状は監査人自らが直接受け取る形で、100%回収すること

イ.売上取消などの通常とは異なる取引については、内容を十分吟味すること

ウ.外部倉庫にある棚卸資産を販売する取引にあっては、名義手数料、倉庫保管料、在庫、売等の関連勘定が整合しているかを調査すること

エ.今回では会計伝票と手形の同時発行が行われないなどの内部統制上の欠陥がある場合には、手形の帳簿記入への連番チェックを行うこと。

オ.取引業者のコード入力について、実在性が確保されていることに留意すること

カ.外部倉庫に保管されている在庫については在庫証明書の入手にとどまらず、重要性に応じて実地棚卸に立ち会うこと


6.その他

・上場会社において、現金及び預金の帳簿残高が実際と異なるなどということは、あってはならないことです。これを報告書は決算・開示に関するプロセスに関する内部統制として、取り扱っていないようですが、現金及び預金残高の実在性、正確性は決算プロセスにおいてもチェックしなければならない事項だと、思います。

・不正防止に携わる者として、調査報告書から知りたいことは不正の具体的手口です。この辺りは犯罪方法を公にすることになるからか、ほとんどの調査報告書で記載されていません。不正の具体的手口は特殊なものでなく、一般にも知られている方法で行われたものとして、対策を考えるしかないのが、ちょっと残念です。
                                   Tetsu