2011/11/11 大王製紙調査報告書を読む -監査役と監査法人の責務-

 大王製紙株式会社元会長への貸付金問題に関する特別調査委員会の調査報告書が10月27日に公表されました(http://www.daio-paper.co.jp/news/2011/pdf/n231020a.pdf)。一読して残念なのは、本件貸付が行われ、かつ早期に発見・防止されなかった原因の分析・評価(コンプライアンス・ガバナンス上の問題の検討を含む)と、目的にうたわれているにもかかわらず、会社の機関がどのような役割を担い、その職務を全うすべきかについての記述が少ない点です。先の目的を達するためには現在の役員の拠るべき善管注意義務の水準を明らかにしない限り、評価のしようがありません。各機関の行動水準をどこに置いているのかが、さっぱりわからず、役員の責務の高度性がつたわってきません。

 

1.子会社の計算書類について

 子会社の計算書類等が調査対象資料に記載されていません。会社法に規定する計算書類等を適正に作成されているか否かが調査対象となっていません。役員との取引は事業報告書に記載すべき内容ですが、それが適正に作成され、株主に通知されたのか否かがまったくわかりません。子会社のガバナンスの実態、取締役および監査役の責任を先入観なく調査するに当たって、始めの一歩が行われていないのは驚くべきこととしか、言いようがありません。

 

2.監査役について

 会計監査人が会計監査を担い、監査役が業務監査を担う、と会社法では規定されています。それにもかかわらず、監査役の本件取引への行動については、わずかに「常勤監査役は特段の注意を払わなかった。関連当事者との取引において、本件貸付の事実が記載されていることに注意は及ばなかった」と、記載するのみです。その原因は明らかでなく、その責任も「他の取締役及び監査役」の項で、「本件貸付を防止すべき任務を十分果たしていたとは評価できない役員についても、相応の責任がある」と記載するだけです。結果、改善提言は「社外監査役に適切な情報を届けるべき役割を担う人々が、その役割を果たし、監査役会に問題を報告し、注意を喚起する」こととしており、監査役固有の責任については、言及していません。

取締役の利益相反取引の監視・検証は、会社法上明示された監査役の義務です。監査役は株主総会で監査報告書をもって監査結果を報告します。そこでは「取締役の職務の執行に関する不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実は認められません。」とうたっています。また、旧商法の監査報告書では。取締役の競業取引、取締役と会社間の利益相反取引、会社が行った無償の利益供与、子会社又は株主との通例的でない取引並びに自己株式の取得及び処分等についても取締役の義務違反は認められません。と記載されていたほど、監査役監査の重要な対象です。これをうけ日本監査役協会の監査役監査基準においても取締役の利益相反取引の検証を義務づけています。関連当事者との取引の網羅性、調査手続きの適正性、本人への確認手続き等をチェックすることは、監査役が当然実施しなければならない業務監査項目です。その意味で、この不祥事について第一に責任を担うのは子会社及び親会社の監査役であるはずです。監査役はこれを防止するための期間として設立されているといっても過言ではありません。それにもかかわらず、有価証券報告書に記載されている子会社と役員との取引について、見もしない、ということについて、どのような監査手続を行って、結論に至ったのかについて、まったく触れていないのは、第三者委員会が、監査役の任務を承知していないのか、あるいは誰かにに遠慮をしているのかと、いずれかと思わざるを得ません。

 

2.会計監査人について

 「監査法人の業務に~問題があったから、適切な対応をするよう検討すべきである。」とし、その対策として監査役会に問題点を報告することを報告書は、提言してい。

 これも会計監査人固有の責任が何かについて、わかっているのだろうかと、疑問を覚えざるを得ません。金融商品取引法が改正され、いわゆるJーSOX法が適用されて以降は、監査法人が実施する監査に会社の内部統制の有効性が加わりました。ここではまず、会社の全社的内部統制を検証することが求められいます。そしてこの全社的内部統制の検証において、監査役がどのような役割を果たしているか、は基本的な検証項目です。本件取引は監査役の業務監査が有効に機能しているかを判断するにあたり、監査役に対する格好の質問事項です。にもかかわらず、監査法人は本件取引について、質問も行わず、全社統制が有効と判断していたのか、これこそが問われなければならない事項です。ガバナンスにおける監査役の機能を検証せずに、全社的内部統制は判断できないでしょう。この点に触れない報告書はどのようなレベルで会計監査をとらえているのか、まったくわかりません。

 

 法定事項を実施しているかを調査せず、さりとて各業界が示している水準での意見もなく、この事件が教訓となって通常のレベルでのガバナンスが果たすべきものとは何かが明らかにされなかったのは、はなはなだ残念です。

Tetsu