不正と税金

1.仮装経理に基づく過大申告の場合の更正
 広義に粉飾といった場合、狭義の粉飾(業績の嵩上げによる利益の過大計上)と逆粉飾(主に脱税目的の利益の過少計上)とを意味します。
 一般に税務上問題になるのは後者で、国税局や税務署は「脱税していなか?」「利益の過少計上はないか?」という視点で調査することが一般的です。一方で、利益の過大計上(架空売上や費用非計上)により生じた所得については、税務上は、あまり問題視されないケースが多いように思われます。
 というのも、本来払わなくてもよい税金を「率先して(業績を装って)」支払ったわけですから、粉飾自体は咎められる違法行為ではあるものの、それに伴う納税自体は「その違法行為の対価」として、問題視されないのかもしれません。
 一般論としては、既に行った申告について税額が多すぎた場合には、申告期限から5年以内に更正の請求ができます(国税通則法23条)。つまり「納めすぎた税金を返してください」といえるわけです。
 しかし、粉飾の場合はこの一般論が該当しません。
 業績を装ってあえて税金を納めたにもかかわらず、その粉飾の露見に至ったことから、更正の請求により税金を取り戻す、というのはあまりに虫が良すぎるといえるでしょう。
 そこで法人税法では、「仮装経理に基づく過大申告の場合の更正と法人税額の還付の特例」という制度を用意しています。
 これは、粉飾決算を行っていた場合の減額更正について、減額となった法人税を直ちに還付せず、その後5年以内の事業年度の法人税額から控除するという制度です。つまり「納めすぎていた税金を返してください」といったとしても「粉飾していたからダメ。その代り、今後納める税金にその分を充当してあげよう」ということです。
 要するに、粉飾を行った以上、通常の更正の請求と同様の還付は受けられないという罰則的な扱いがあるのです(会社の解散や合併等の一定の事由に該当すると、減額更正後、直ちに還付される場合もあります)。

2.不正に係る税金
 会社が不正を働いて損失を被った場合でも、その損失が会社の節税に寄与するとなれば、課税の公平性に反することになるでしょう。そのため、隠蔽・仮装等のために要した支出、賄賂その他、法人による不正行為等に係る支出は、所得金額の計算上、損金の額に算入されないことになっています(法人税法55条)。
 この規定は、隠蔽仮装行為に要する費用だけでなく、隠蔽仮装行為により生ずる損失の額も含みます。例えば、延滞税や過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税、印紙税法の規定による過怠税もしかりです。罰金や科料、刑法に規定する賄賂や独占禁止法や金融商品取引法に規定する課徴金等も同様です。
 地味な話のようですが、たとえば印紙税。
 調査によって印紙税が納付していないことが判明した場合には、納付しなかった印紙税額と、納付しなかった印紙税額の200%相当額が過怠税となります。つまり合わせて3倍です。当初の納付予定額の3倍の額が過怠税として納税が必要となり、しかもその全額が損金不算入となるのですから、かなり懲罰的です。
 また、法人税法127条1項3号では、青色申告の承認の取消事由として、帳簿書類に取引の全部または一部を隠蔽しまたは仮装して記載し、その他記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合を規定しています。この場合、租税特別措置法に規定する特別償却や税額控除や欠損金の繰越その他といった種々の税務上の特典を受けられなくなります。

 このように法人税法も企業不正を牽制する規定を置いています。
 しかし結果的には、本稿は、かなり地味な話になってしまいました。
 やはり、そもそも税法は税金を徴収するための法律ですから、利益の過大計上を伴う不正には、意外に(?)寛容なのかもしれません。Taku