みずほ銀行 調査報告書からの教訓

(株)みずほ銀行は、9月27日に販売提携ローンでの反社会的勢力との取引について、金融庁から業務改善命令を受けました。これを受け、同行は外部の専門家による第三者委員会として「提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会」を設け、10月28日同委員会は調査報告書を取締役会に提出し、同日公表されました。そして、翌日同行は54人に上る処分を発表しました。11月13日には頭取が国会に招致されるまでに至った原因は一体どこにあったのでしょうか。

 

報告書は事件が起きた原因について、次の8点を掲げています。

①本件取引が関連会社である(株)オリエントコーポレーションが実取引を行っていたことから、自行債権であるという意識が希薄であったこと

②反社会的勢力との関係遮断につき、組織として取り組むことの重要性に対する役職員の認識が不足していたこと

③役職員の退任・異動により課題認識の断絶が生じたこと

④組織としての課題取組の継続性を担保するための制度が機能しなかったこと。

⑤反社会的勢力の問題の経営陣に対する報告の行内ルールが明確性を欠き、行内に十分浸透していなかったこと。

⑥本件取引の所管部署であるコンプライス統括部と他の関連部署との間の連携・コミュニケーションが不足していたこと。

⑦内部監査が十分に機能していなかったこと

⑧金融庁への報告に際して確認不足・不徹底な対応があったこと。

 

ここでは報告書に記載されていないことで、特に気になること・教訓として受け取るべきこと3点について言及します。

 

1.リスクコントロール及びその評価

コンプライアンス経営においては、自社のリスクを網羅的に把握し評価することが求められます。リスクの評価に当たっては、リスクの発生頻度と影響の大きさ(金額や事業経営への影響度)のマトリックスにより評価する手法が一般的です。このリスク評価は社会の動向等を反映するため、毎年見直すことも一般的に実施されていることです。

みずほ銀行においても、コンプライアンス・リスクに関して、各部門における取引・事象を網羅的に把握した上で評価を行い、対策を練ってその効果が発現されているかということをコントロールしていたのではないかと、推測されますが、報告書にはこの評価制度についての言及がありません。

本件は、2009年当時はコンプライアンス委員会での審議事項であり、取締役会での報告事項でもありました。報告書は、後任の頭取に引き継ぎが行われなかったことを問題点として指摘し、組織としての取組みの必要性を指摘しています。

ところが、重要事項から除外するときの手続きについての言及がないために、組織としての体制の整備状況を知るすべはありません。コンプライアンス委員会で重要事項としての審議対象としていたのですから、問題が発覚した当初において、リスク評価は高かったものと思われます。

リスク評価を変更するときのルール、コンプライアンス委員会で重要事項として取り上げるべきリスクのレベルについて、制度と運用の実態への言及があれば、他社への教訓となるのにと、残念でなりません。

ある個人が退職すると、あるいはある個人が一職務に忙殺されるとないがしろにされるような事態になった組織・制度こそが、原因として追及されるべきことであったのではないでしょうか。

 

2.目標管理

目標と対応した成果主義の弊害として、その年度に達成できることを目標とするために、目標のレベルを下げ、実現できないことは目標として掲げなくなる、ということがつとに指摘されています。

そのため役員をはじめ部門長には、各部門・各職員がチャレンジ精神を失わせないように目標レベルを下げないよう、目を光らせることが求められています。

本件について、報告書は当初、頭取やコンプライアンス担当役員が、反社管理の問題として把握していたことに言及した上で、「事後チェックを超えた対応は現実的には困難であるという認識の下、その取組みを放棄したと疑われる事実も認められた」と指摘しています。

これこそが重要性を低くしたこと、リスク評価を低くし、コンプライアンス委員会における審議事項から除外した根本原因ではないのかと、思えてなりません。

実現できない目標は取り上げないということが、コンプライアンス遵守においても起きているとするならば、コンプライアンス遵守をいくら標榜しても実態が伴うはずもありません。目標管理の病弊が現れていないことを切に願うばかりです。

 

3.役員の責任

報告書は本件について、取締役会において大部の会議資料中の若干の記載によってなされていることから、役員がこれを知悉できないことはやむを得ないこととして、役員への責任について言及しなかったようです。一方で、今後の対策の中で、コンプライス委員会への報告事項(審議・調整事項)を明確にするよう求めています。

会議において、報告されたことの適否を判断するに当たっては、記載されていることの適否にとどまらず、記載されていないことは何か、不足していることは何かを検討することが、出席者に求められていることは言うまでもありません。

限られた時間の中で取締役会等の会議で決するためには、報告すべき重要事項をあらかじめ明確にすることは、当然のことです。それを怠ったことにつき、報告書では役員の責任として指摘していませんが、内部統制構築責任を担う役員の責務であることを自覚すべきでしょう。

 

Tetsu