2014年1月 政治資金収支報告書の監査制度について

 201415日の日経朝刊の社会面「政治とカネ チェック大丈夫?」との見出しで監査人である公認会計士・弁護士等が国会議員の資金管理団体に寄付していることが問題視されています。記事では「監査制度導入に伴って支持者の弁護士らに監査を依頼し、寄付も従来通り受け続けたケースが大半」としています。

 その議員側の考えが二つ示されています。

A「法的に問題はないが、誤解を招かないよう今後は寄付を遠慮しようと考えている」

B「厳正な監査で特に問題はない。監査人の変更も考えていない。」

 結論から申し上げるとAは正解です。Bは残念ながら誤解があります。以下、解説します。

 監査の目的は「信頼の向上」です。

 その目的を果たす上で重要なことが「監査人の独立性」です。

 監査人の独立性は「精神的独立性」と「外観的独立性」とに区分されます。

 精神的独立性は、監査人の「心の状態」としての独立性であり、いかなる圧力や誘惑にも屈しない自己の信念に基づいた公正不偏の態度を意味します。要するに「厳正な監査をする」という監査人の姿勢・意気込みのようなものでしょう。

 一方、外観的独立性は、監査人の「見た目の問題」としての独立性であり、監査対象と経済的・身分的に特別の利害関係にないことを意味し、監査人の公正不偏の態度に関する疑念を持たれない状態を意味します。要するに「厳正な監査をしているように見える」という監査人の外観の問題なのです。

 監査の目的が「信頼の向上」であるならば、監査人は精神的独立性を保持するだけでは不十分であり、外観的独立性をも保持しなければならないのです。

 

 上記に照らして、果たしてAの見解はどうでしょうか?

 「誤解を招かないよう今後は寄付を遠慮する」としたのは、「信頼が得られない」ことを危惧した見解です。寄付をするような身内が監査をすることで、癒着や馴れ合いがある(実際にあるかどうかは別問題として)ようにみえることが問題視されているわけですから、解決策は以下の二つしかないのです。

① 監査人を変更しないなら、その者からの寄付を遠慮する。(Aが採用)

② 寄付を継続してもらうならば、監査人を変更する。

 

 一方のBはどうでしょうか?

 この見解は「監査が厳正に行われているか」ということと、「監査が厳正に行われているように見えるか」ということとは、別問題であることが理解されていません。寄付をしていない公認会計士や弁護士が沢山いるにもかかわらず、あえて「寄付をしている者に監査をお願いしている」「癒着・馴れ合いがある」と思われても仕方ないのです。

 

 重要なことは、事実は別として「どのように見られているか」ということなのです。「監査が厳正に行われている」ということは、あくまで監査人と監査を受ける側の当事者間での感想に過ぎません。監査が信頼の向上を目的とする以上、信頼を損なう状況は可能な限り避けることが必要なのです。

 「寄付も貰いたいし、監査人も変更したくない。」

 残念ながら、それでは監査は成り立ちません。

 「独立性なくして監査なし」と言われる所以です。

 監査の目的を今一度、考え直して欲しいと思います。Taku