2014年1月 質問という監査手続 その2

 前回に引き続き「質問」という監査手続についてです。

 監査実務界で名著とされる野々川幸雄先生の「異常点監査の実務」(中央経済社)では、一橋大名誉教授の植松正先生の「供述の心理」から、質問の7つの形式を紹介しています。以下、要約して紹介します。

総括問

「この訴訟事件について知っていることを述べてください。」

 回答方法を回答者の自由に任せる問形式であり、多くの情報が収集できる可能性がある一方で、総括的な回答にとどまり、具体的・核心部分の回答が得られない可能性もある。

疑問詞問

「この仕訳は、いつ、誰が起票したのですか」

 いわゆる5W1Hの疑問詞を利用した問形式であり、総括問に比べれば具体的な回答が得られる可能性は高く、監査でも多用されている。

認否問

「借入金はありますか」「その領収書は本物ですか」

「はい」か「いいえ」で回答する問形式であり、端的な回答が期待されるため多用されるが、確信のない回答者は「はい」と回答する傾向があることから、暗示性が高いといわれる。

肯定問・否定問

「債務保証していましたね」「その時点で知っていましたね」

 これも「はい」か「いいえ」で回答する問形式であるが、回答者を問い詰める形式となるため、誘導尋問となりやすく、また回答者の反感を抱く原因となる。

選言問

「承認したのは課長ですか、別の人ですか」

 一つの特定した候補とそれ以外とを選別させる問形式であるが、回答方法は二者択一となり、これも上記の認否問と同様、確認のない回答者は「はい、課長です」と回答する傾向があることから、暗示性が高いといわれる。

二者択一問

「次長の指示ですか、部長の指示ですか」

 これも二者択一の回答を求める問形式であるが、二つの特定した候補のいずれかを選択させることで、回答者が誤った回答をする可能性がある。

前提問

「この『横領』に気づかなかったのですか」「この『粉飾』は・・・」

 横領や粉飾について回答者が未確認のまま、回答する場合、それらの前提を肯定したことになる可能性があり、暗示性が高いといわれる。

 上記のうち「総括問」は「開かれた質問」に該当しますが、それ以外は端的な回答を前提としますから「閉ざされた質問」に該当します。

以下では、現金出納担当者に質問する場合の例として、二つの質問方法を考えます。

A「現金は毎日、小口現金残高と一致を確認してますよね?」

B「毎日の現金の管理はどうしてますか?」

 Aが上記でいう「肯定問」であり、「毎日一致を確認しなければならない」という質問者の価値意識が回答者に伝わることで、回答者は咄嗟に「はい」と答えることが多いようです。「はい」と答えた上で回答者は「いや、毎日はやってないけど・・・。でもいいか。」と考えたとしても、質問者はその事実を知ることはできません。

 一方で、Bは「総括問」であり、機転の利く回答者であれば「毎日というわけではないですが2~3日おきに残高と確認しています。金種表も作っています。」と答えるでしょう。適切な質問をしない場合、真実を知り得ない場合が多いことに注意が必要なのです。

 また、やや高飛車な話で恐縮ですが、質問する場合には回答者の知的なレベルにも配慮することが必要とされます。

 総括問の場合、相手に裁量がありすぎるため、知的レベルが高くない人の場合には何をどう答えて良いか判別できない場合もあります。そうした場合には「疑問詞問」を中心として「認否問」で補足するような質問が有効です。認否問だけで「はい」という回答が増加し、質問の回答間に矛盾が生じてしまうことも考えられます。

基本的には、肯定問や否定問は誘導的であるため基本的に使用せずに、また選言問や二者択一問はインタビューの最終時点で確認のために使用される場合が多いようです。インタビューの初期の段階で、選言問や二者択一問を多用すると、前回も指摘しましたが、畳み掛けるような雰囲気から回答者からの心理的な抵抗感を与える可能性も注意が必要ですし、また前提問は質問する側が「前提問となっているかどうか」の配慮が必要となります。

いずれにしても、質問者は種々の質問方法の有する特徴を理解しておくことが重要でしょう。

次回は質問の結果「怪しい」と思う場合の例を検討します。Taku