2014年5月 監査業務と不正等に関する実態調査(日本公認会計士協会)

20145月、日本公認会計士協会は、「監査業務と不正等に関する実態調査」を公表しました。

監査業務に関与する会計士936名のアンケート結果によると、過去10年間で少なくとも一度、不正に遭遇したことがある人は、457名(48.8%)でした。この比率が多いと考えるかどうかは、人によるのでしょうが、個人的には「低い」と感じました。

会計士が遭遇した不正には、以下のパターンが多いようです。

  従業員等による資産の流用・窃用(資産の実在性の問題(架空計上)が生じる)

  故意による財務諸表の虚偽表示(循環取引等による売上の架空計上や負債の非計上等)

こうした不正のタイプは、不正事例研究会でも良く取り上げるパターンです。このアンケートで個人的に興味があったのは、「不正に気付いたきっかけ」です。

以下に、そのアンケート結果の上位を順に示します。

    証憑突合、文書の査閲等の監査手続(41.9%)

    監査人と経営者や監査役等とのコミュニケーション(22.7%)

    被監査会社の従業員からの相談(16.9%)

上記のうち、②や③のコミュニケーションや相談は、会社側がその不正の存在を監査人に伝達したことを意味するのでしょう。一方、①の「証憑突合、文書の査閲等の監査手続」については、監査人が注意深く証拠資料を検証した結果として不正が明らかになったケースとも言えるでしょう。

こうしたアンケート結果は、監査手続の実施に際して十分配慮されるべきです。

なぜなら上記のアンケート結果は、証憑書類や文書の査閲等の監査手続を通じて発見されるべき不正が、監査人の不注意によって見落とされる可能性がある、ということをも示唆しているためです。

また、もう一つ個人的に興味を抱いたのは、「不正等と遭遇した顛末」です。

不正事例研究会では、主に各企業の投げ込み資料やマスコミ報道等で話題となっている不正を取り上げていますが、実は、会計士が遭遇した不正のほとんどは、公表されません。その理由は、会計士が不正と遭遇した顛末として、最も多いアンケート結果が「被監査会社が財務諸表の修正に応じるなど、最終的に無限定適正意見の表明に支障がなかった」(64.0%)という回答であったことからも分かります。

つまり、財務諸表の監査は、財務諸表の開示前に行われ、監査の過程で不正を発見したとしても、財務報告前に不正を修正し、最終的に公表する財務報告が適正となれば、社会一般の目に、その不正の存在は知られることはないのです。または、その不正の存在に起因して、監査人と会社側との見解の不一致を理由として、監査契約を解除する場合も同様です。さらに監査人は守秘義務がありますから、不正が存在した事実を、一般には公表することはないのです。

新聞等のマスコミでは、粉飾を見いだせなかった会計士のみが事件として取り沙汰される理由も、ここにあります。

逆に、「●●監査法人、☓☓企業の粉飾を事前に防止!」「お手柄会計士のコメント:『今回の企業不正は自分でも良く見つけたと、自分を褒めてあげたいと思います。』」などとコメントする会計士もあり得ないのです。

そういう意味では、こうしたアンケートの実施及び公表は、会計士に対する社会的な役割期待に対応する資料として注目に値するでしょうし、また上記のとおり、会計士が監査を実施する上での注意を喚起する効果もあるのです。

 

最後に、不正の顛末に関するアンケートとして、「不正の顛末は、専門家として満足のいくものでしたか?」と問いに対して、63.2%が「はい」と回答し、その理由として「監査人の毅然なる態度」(62.3%)を要因としています。

不正を犯した会社側に対して、毅然とした態度で立ち向かった立派な会計士像が、そこにあります。しかし、裏を返すと、「監査人のあいまいな態度」を理由として、「問題の顛末に不満が残った」と回答した会計士も、ごく少数ですがいるようです。何とも残念。

「独立性無くして監査なし。」

監査人に「独立不羈」が求められる所以でしょう。Taku