2015年7月 工事進行基準を適用している企業における不正事例

 工事進行基準による収益認識は、原価比例法という手法によることが一般的です。
 例えば、ある工事の見積工事原価総額が80で、実際の原価発生額が30の場合、工事進捗率は実際の原価発生額(30)を見積総原価(80)で除した比率として算出されます。これに見積工事収益総額(100)を乗ずることで、工事の進行に応じた収益を認識することが工事進行基準による収益認識(原価比例法)の基本的な考え方です(この場合、工事進行基準による収益認識額は37.5=工事収益総額100×工事進捗率(30/80)となる)。
 一方で、建設会社は外注業者等と密接な関係にある場合が多く、正式な契約書面をやりとりする前に取引が開始されることがあることに加えて、外注業者等に不利な条件を強制できたり、取引の実態とは異なる形式的な書類を仮装させたりする可能性も考えられます。
 さらに、工事の遂行拠点が多数にわたるのみならず、工事契約の内容も多岐にわたることから、原価の付け替え等の可能性やそうした操作に対する有効なモニタリングがなされない可能性も考えられます。
 工事進行基準を適用している企業における不正事例としては、工事収益総額の見積りや工事原価の操作等に起因することが多いですが、以下では、日本公認会計士協会の公表した監査・保証実務委員会実務指針第91号「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」に示されている不正事例を紹介します。


①意図的な工事契約の認識の単位の設定による工事損益率の調整
 これは、工事契約の認識の単位を意図的に変更する不正事例で、例えば、一つの工事契約を複数の工事契約に分割することを仮装したり、複数の工事契約を一つの工事契約に集約することを仮装したりすることを意味します。
 一つの工事契約では赤字であっても、複数の工事契約に分割すれば、部分的に利益計上が可能になったり、逆に一つ一つの工事契約では赤字であっても黒字の工事契約に集約して一つの工事契約とすれば、通算して利益計上が可能になったりすることがあります。
         
②工事収益総額が契約書等で確定していない場合の工事収益総額の不適切な見積り
 正式な工事契約が締結されていないままに取引が開始される場合、工事収益総額の見積りに際して主観的な判断が伴うことになり、特に意図的に多額に工事収益総額を見積ることで、収益を架空ないし前倒計上する操作が可能になります。


③実現可能性の低い原価低減活動による原価低減を考慮した工事原価総額の不適切な見積り
 工事収益総額だけでなく工事原価総額もまた見積りが必要となり、恣意性が介入することで意図的な収益計上の操作が可能となります。特に将来の原価低減活動を考慮することで、工事原価総額の見積額が低減し、見積工事原価総額に占める実際に発生した原価の相対的な比率が高まる結果、工事進捗率が嵩上げされ、収益認識の前倒しが可能となります。


④工事契約の管理者が故意に外注業者等又は会社内部の者との共謀による工事原価の操作
 発生した工事原価を異なる工事契約の工事原価とする等の工事原価の付け替えにより、赤字が予想される現場の工事原価を黒字が予想される現場の工事原価とすることが考えられます。また単純に、発生した工事原価を故意に計上しない(又は翌期に繰延計上する)ことや、架空原価を計上する(又は当期に繰上計上する)ことによる工事原価の操作も考えられ、さらには、作業実績時間等の操作を行うことによる工事原価の操作も考えられます。


 このように工事進行基準は見積りの要素が大きく、また契約書等の書面が事後的に作成されることもあり、さらには外注先等との密接な関係に起因して、関係資料までも操作指されている可能性に鑑みるならば、公認会計士監査等の外部からの調査によってもその発見には限界があるといえるのかも知れません。

 なお、利益操作を目的とした不正では、例えば、会計システムが内部管理用と外部報告用とで二重帳簿化されている等、不正が発覚しないようなシステムが構築されている可能性もあり、この場合、監査によって発見される可能性はさらに低くなると思われます。
 昨今、東芝の不正経理が問題となっていますが、その実態もようやく明らかになりつつあります。今後、会社の公表資料等を参考にしながら、工事進行基準に係る不正事例の具体例を取り扱っていこうと考えます。Taku