2015年11月 粉飾と不適切会計の相違

  東芝の粉飾決算が社会問題となっていますが、マスコミの記事を見ると「不適切会計」としているケースがほとんどです。中には「これは不適切会計なんかではなく、明らかな粉飾だ」と強い論調のコメントを出す方もいるようです。
 果たして「粉飾決算」と「不適切会計」にはどのような差異があるのでしょうか?
 検討してみましょう。

 公認会計士が監査をする上で実務上の指針となっている「監査基準委員会報告書」では、財務諸表上の虚偽表示は、「不正」又は「誤謬」から生じ、財務諸表の虚偽表示の原因となる行為が意図的であれば「不正」、非意図的であれば「誤謬」とされます。
 また、そもそも「不正」という用語は「意図的である」という点で広範な意味を持ちますが、財務諸表監査上は「財務諸表上の重要な虚偽表示をもたらす不正」が対象とされ、その不正には「不正な財務報告(いわゆる粉飾)」と「資産の流用」とに区分されます。
 こうした財務諸表上の虚偽表示に係る分類を前提として、同報告書における「不正な財務報告(いわゆる粉飾)」の定義を示すと以下のとおりです。

 「不正な財務報告(いわゆる粉飾)とは、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行うことであり、計上すべき金額を計上しないこと又は必要な開示を行わないことを含んでいる。」 
 要するに、財務諸表上の虚偽表示について、「財務諸表利用者の欺く意図」があれば、「粉飾(決算)」に該当するわけです。
 一方、「不適切会計」といった場合には、語感的にも広範囲の意味を持つことが理解できるはずです。つまり、意図的か否かを問わず財務諸表に虚偽表示がもたらされている状況が「不適切会計」と呼ばれるのでしょう。

 さて、東芝の今回の事件を「粉飾(決算)」と呼ぶのか「不適切会計」呼ぶのかは、財務諸表上の虚偽表示が「意図的だったかどうか」によって判断されることが分かりました。それでは果たして東芝のトップはいかなる意図で「チャレンジだ!」と言っていたでしょうか?
 彼らに「財務諸表に虚偽表示をもたらす意図がなかった」のでしょうか?
 むしろ、それがハッキリしないからこそ、報道機関は穏便に「粉飾」ではなく、「不適切会計」と呼んでいるのでしょうか?

 私個人としては、今回の東芝の事件は「粉飾決算」であることを前提としても何ら差支えないと思います。
 仮に、上記のように用語の定義を明確にした上で、なお「粉飾(決算)」ではなく、「不適切会計」という用語を使用し続けるならば、真相究明や法的な責任追及自体も曖昧になってしまうことが危惧されます。
 報道機関やその情報の受け手である一般の方々はどのように思うのでしょうか?ご意見賜れれば幸いです。Taku