2012年1月18日 オリンパス事件。監査役は責任有り、監査法人は責任なし。

2012116日のオリンパス株式会社の監査役等責任調査委員会が公表した調査報告書では、今回のオリンパスの事件について、「監査役は責任有り」とされ、「監査法人は責任なし」としています。

この点について、一部「整合性がないのではないか」との指摘がなされているようですが、考えてみましょう。

 

そもそも監査役は、取締役の職務執行を監視する役割を担っています。これは「取締役の職務執行は誠実です」という太鼓判を押す役割です。

一方の監査法人は、オリンパスの作成した財務諸表の適正性を明らかにする役割を担っています。これは「この財務諸表には重要な虚偽の表示はありません」という太鼓判を押す役割です。

今回の責任の有無の分かれ道は、この両者の本質的な役割の相違に起因します。

 

例えば、今回のオリンパス事件で問題となった価値の伴わない巨額の企業買収について考えます。

価値の伴わない巨額の企業買収のような会社に損害を与えようとしている行為は、監査役としては「取締役の職務執行に問題がある」として、事前にこれを行わないようにする責任があります。

一方、監査法人は、その巨額の支出に係る会計処理を検討して、「財務諸表が適正に開示されているかどうか」を検討しますから、取締役によって行われた行為そのものの妥当性について意見する立場にはありません。

このような両者の本質的な役割の相違があるからといっても、両監査が適切に行われるように、両者は意思疎通を図ることが必要とされます。

本件でも、巨額の企業買収については、監査法人側も気がついていました。

「あまりに巨額でおかしい」と考えた監査法人側は、これを監査役に伝え「このような取締役の行為が許されるのかどうか、慎重に検討されたい」との監査法人の申入れをしています。これに対して監査役は第三者とされる専門家の意見書を添えて「問題ないと考えている」と回答したならばどうでしょう。

  

もちろん、「いくら監査役がOKを出したからと言っても、あまりに不合理だ。何か裏にあるはずだ」と懐疑心を高める必要はあるでしょうが、監査役がOKとした以上、もはや「その買収はやめた方が良い」と意見することは監査法人にはできません。あくまで「その企業買収の会計処理は正しいのか」を検討することが監査法人の本来の役割だからです。

 

今回のオリンパス事件は、粉飾の金額的な重要性もさることながら、損失隠しを続けた期間の長さ、また不正を告発して解職されたと主張するマイケル・ウッドフォード元社長の解任、大手監査法人間の交代、国際的に著名な会社の粉飾等、注目すべきポイントの多い事件であり、今後も様々な責任に関する議論が為されると思います。

本コラムは、その中で「巨額の企業買収は妥当だったか」という点にのみ切り離して議論してみました。

 

最後に強調しておきたいのは、本事件の首謀者3名の中に当時の監査役が含まれていたことです。

いくら監査法人が監査役に警鐘を鳴らしたとしても「笛ふけど踊らず」という状況だったのでしょう。