2014年4月 インサイトとチッソ 架空発注

 インサイトといえば、ホンダの車名?チッソといえば、水俣病問題の会社?

両者に全く共通な点はなさそうですが、いずれも「20144月に公表された架空発注に関する不正事例に関連する会社」という意味で共通します。

 

まずはインサイトの不正事例。

札幌証券取引所アンビシャスに上場する株式会社インサイトは、北海道の総合広告会社で、企画、制作、プロモーションを手がける会社です。同社は20144月に「当社元従業員の不正行為に関するお知らせ」を公表しています。

どうしても「不正の公表」というと会社の不祥事ということで、マイナスイメージが拭えませんが、今回の上記の不正の公表は、個人的には、かなり好感度が高いと考えています(厳密にはマイナスイメージが少なかったといった方が良いかも知れません)。

というのも、この不正は20142月~3月に、不正実行者が複数の仕入先を利用して架空の発注を行い、納品されたパソコン等を売却して得た資金を横領していたというものです。不正の額は11百万円。仕入先からの3月末日予定の支払がない旨の指摘があったことをきっかけとして、不正行為が発覚しています。

不正の実行期間は2ヶ月で短く、被害総額も11百万で少額です。公表のタイミングも不正実行期間の終了後、1ヶ月です。これだけ短期間に金額も多額にならずに、しかも迅速に公表しているケースは、多くの不正事例を紹介している中では稀です(その意味で違和感さえ覚えます)。

不正実行者は「すぐにバレる」と知らずに実行したのでしょうか?

こうしたキッチリとして組織であれば、不正は実行しにくいでしょうし、再発する可能性も低いでしょうし、さらに万が一不正が発生したとしても、早期に発見できることが期待できるといって良いと思います。

 

一方で、チッソの事例です。

グリーンシート銘柄のチッソは「あの水俣病の会社」です。

同社は20144月「当社孫会社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を公表しました。

チッソは2011310日の取締役会決議により、中核子会社であるJNCに主要な事業を譲渡することを決定し、その後、持株会社として子会社の管理と、水俣病患者への補償を行うことに特化しています(2011310日といえば、「あの」2011311日の前日です。あまり関係はないのでしょうけど。)。

今回の不正は、その事業譲渡されたJNCとその子会社(チッソからすれば孫会社)であるJNCファイバースで行われました。その孫会社の元従業員が不正実行者として、架空の納品書を偽造して、あたかも荷造り梱包材等が納品されたように見せかけ、上記の子会社及び孫会社に対して製品代金を振り込ませ、これを詐取していたとされます(不正実行の期間、金額等の詳細は現時点では公表されていません)。

 

上記いずれも架空発注・支払代金の詐取という不正事例です。

こうした不正には、一般的に発注時の承認や納品時の検収作業の分掌化、現品管理の強化(入出庫記録や定期的な棚卸等)、請求書や支払依頼書といった支払に関する書類の承認といった個別的なコントロールも有用です。

また、補完的な統制ではありますが、無駄な支出がないかどうか十分に吟味した上で予算を編成し、これと実績との対比を通じて、異常な増減を検討することも有用です。当初想定した費用と比較して、異常に増加している支出があれば、「パソコンの購入費用が多い」「荷造り梱包材の費消が多い」等の変動を認識しやすくなるでしょう。その原因究明の結果、不正が明らかになることもあるのです。

いずれにしても、業務実行者を野放しにせず、相当のコントロールの元で業務が遂行されていることを実感させ、「何か悪さしてもどうせ見つかってしまうよ」と思わせることが肝要なのでしょう。

インサイトとチッソ。業種や業態、規模その他、全く異なる会社ですが、起きうる不正は共通するのです。Taku