2012年10月 三菱電機の過大計上に思う(再)

 「2012年1月防衛庁水増し請求事件に思う」「三菱電機の防衛庁等に対する水増し請求」で取り扱いましたが、同社(及び住友重機も同様)の過大請求は1970年代から繰り返されていたことが会計検査院により明らかにされました。
 驚きました。
 ある程度の長い時間は想像していまいしたが、まさか40年近くも長きにわたり過大請求が行われていたとは。
水増し請求を可能にするには、そのためのプロセスを構築する必要があります。実際の作業日数、作業時間と水増し分とを明確に区別できなければ、社内の原価計算・利益管理が不十分となるためです。当然にITシステムを含め、様々な技法、工夫、改ざん、隠蔽工作が伴っていたはずです。
 ちなみに、2012年3月期の同社の内部統制報告書では、「財務報告に係る内部統制は有効と判断している」と記載されている一方で、異例な特記事項が記載されています。皮肉っぽく言えば、「水増し請求のための内部統制」もさぞかし整備及び運用されていたことでしょう。
「5【特記事項】
 平成24年1月以降、当社が電子システム事業において、防衛省、内閣衛星情報センター、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構、独立行政法人 情報通信研究機構及び総務省との契約で、また、連結子会社等4社が防衛省との契約で、費用の過大計上や不適切な請求を行っていたことが判明し、それぞれから<u>指名停止</u>又は競争参加資格停止の措置を受けた。この事実を厳粛かつ深刻に受け止め、全容解明、原因究明のための徹底した調査に取り組んでおり、ただちに対応すべき改善策に着手するとともに、今後、再発防止に向けた更なるコンプライアンス体制の充実・強化を図っていく。」

 

 水増し請求額は国庫に返納されなければならないことは自明です。
 国庫に返納すべき水増し請求額を算定するには、同社の構築した過大請求するための仕組みを利用しなければなりません。願わくは、同社にはこの仕組みを改ざんすることなく、過去の原価計算・利益管理に利用した情報に基づいて、正直に過大請求額を算定して欲しいと思います。
 一方で、防衛庁には、この過大請求額が適正に算定されているかどうかを検証する義務があります。40年近くも騙され続け、「ごめんなさい。騙し取ったお金はこれだけです」と差し出された金額を、何ら検証なく鵜呑みにすることは、許されるはずのない怠慢です。
 しかし、どこまで遡及できるのでしょうか?弱った話です。

 上記の特記事項で指摘されている「指名停止措置」の期間は、「事実関係の全容が解明され、過大請求(水増し請求)にかかわる過払い金等が国庫に納入されるとともに再発防止策が報告されるまでの間」とされていました。しかしながら、指名停止期間中であっても、代替事業者や代替品がなく、自衛隊の任務の遂行に重大な支障が生じると認められる場合には、三菱電機と随意契約することになっていました。
 国会の答弁や報道による数値を引っ張ると、2008年~2010年の3年間の防衛庁と三菱電機との間の契約は4,965億円。ザックリと3年平均をとると年1,655億円です(三菱電機の2012年3月の連結売上高は3兆6394億円でしたから、概算で4~5%が防衛庁の売上と推測することは可能です(水増し分を考慮するともう少し少ないかも知れませんが・・・)。
 一方、2012年1月の指名停止措置以降の随意契約は、152件で1,118億円だったとの報道がありました。仮にこれらが正しいとすると、「指名停止などの処置がペナルティーとして機能していない」との会計検査委員の指摘に肯く他ありません。
 騙す側と騙される側とが密接な関係にある以上、他者がいくら「けしからん」と騒いだところで、手の施しようがないのでしょうか。

 最後に、振り込め詐欺の犯人に犯罪の動機を聞くと、「払う奴がいるからやるんだ。」と言ったそうです。
まさに盗人猛々しい。
 また、騙された人は被害者ですが、通常の人は一度騙されれば、二度と同じ過ちは繰り返さないものです。
同じ過ちを繰り返すことは、盗人に追銭。もしかしたら被害者ではなく、犯罪幇助か共同正犯に近いのかもしれません。
 今後は、国庫の返還される金額とその算定プロセスに注目したいと思います。Taku