2012年5月 加賀電子 連結子会社における営業担当者不正

平成245月、東証一部の加賀電子株式会社が、従業員不正に関する「中間調査報告書」を公表しました。

 同社の子会社では、営業担当者による会社未承認による値引きの申し入れ・放置並びに商品の不適切な処分・放置がなされていました。同社の報告書では、得意先別に手法を三つに分けていますが、総括すると以下の二つに集約されると思います。

 以下、それぞれの不正の手法について検討します。

    未承認の値引き

メーカーが製品を販売会社に売却する場合、単なる値引きだけでなく、販売協力金や協賛金、在庫補填金等、様々な名目で販売活動をバックアップすることが一般的に行われており、通常は定められた承認手続を経ることが社内の規程で求められています。

しかし、同社の子会社である販売担当者のA氏は、売上目標の達成やさらなる売上の増加、得意先からの値引き要請等のプレッシャーに起因して、会社の正式な承認手続を経ずに得意先に対して値引きを行っていました。

その結果、得意先の同社に対する支払額は減少しますから、当然に未回収の売掛金残高が滞留することになります。ちなみに平成2210月度100百万円超の売掛金の差異(違算金額)があったようです。その後A氏が得意先等との協議を十分に実行せずに放置されたことから、当該差異の原因究明が不十分のままとされたようです。不正の発覚は平成243月であり、当該不正による影響額は概算で341百万円でしたから、その間この不正は金額的増額していったことになります。

同報告書では必ずしも定かではありませんが、仮に平成22年中に売掛金の差異原因を究明していれば、その後のA氏の未承認による値引きを抑止することができたかもしれません(あくまで結果論ですが・・・)。

不正の早期発見は、不正による損失を可能な限り少なく抑えるために重要であることはいうまでもありません。重要なことは「なにか、おかしいな」と思ったとき、つまり「気づき」や「兆候」があったときの初動調査なのです。「もしかしたらこんな不正があるかも知れない」との仮説を立てて、それを検証する仕組み(特に機動的に活動できる内部監査部門を含むコントロール)を構築することも一つの改善策でしょう。

    商品の不適切な処分

A氏は得意先からの受注を装って、商品が出荷されたかのように見せかけ、実際にはA氏の友人への引き渡し、又は質屋等での換金等による商品の不適切な処分により、会社に損害を与えていました。

金額的には10百万円前後の不正のようですが、一旦計上した売上は値引き処理され、また3ヶ月超(滞留債権の重点管理対象)となる前に、返品、再売上により長期滞留であることが隠蔽されていたようです。

この不正では換金性の高いデジタルカメラ等が不正の対象となっており、不正実行者のA氏は個人の遊興費等に充当することが主たる動機であったとされます。

滞留債権の管理は一般的な企業で行われているところでしょうが、滞留している売掛金がどのように滞留でなくなったのかの要因を明らかにすることも肝要です。実際に入金されたのであれば特に問題になりませんが、それ以外の理由には注意を要します。

特にクレーム等による値引き・返品の場合には、そもそも当初の売上が架空だった疑いがあります。

値引きや返品の処理に係る社内の承認体制やIT内での証跡の残り方等は、非常にデリケートな問題です。あくまで値引きや返品は例外的なプロセスとして位置づけ、必要書類の作成や承認を経ない限り、入力や書換等ができないような仕組みを構築することで、事前に不正の芽を摘むことが重要です。

 

 なお、本不正事例に関しては、今後平成245月下旬に最終報告書が公表される予定です。そこでは、「内部統制上の問題」の検証や不適切な取引の「責任の所在」の明確化、今後の「再発防止策」の提言がなされる予定です。

その公表後、必要に応じて、改めて更新しようと思います。Taku