2013年10月 東芝医療情報システムズの不適切な会計

 2013年10月30日、東芝情報システムズ株式会社(以下、TSMED)は、「当社における不適切な会計処理」を公表しました。TSMEDは、東芝メディカルシステムズ株式会社(以下、TMSC)の子会社(98%被所有)で、TMSCは、東芝の100%子会社ですから、今回、不適切な会計処理を公表したTSMEDは、東芝本体の孫会社になります。
 その不適切な会計処理の手法は「資産の過大計上」であり、売上原価や費用、損失として計上すべき「仕掛品」「ソフトウェア」「ソフトウェア仮勘定」を資産計上するという、単純な手法です。その金額は2006年度~2012年度の間で、9,863百万円とのことですが、本事例で気になった点は以下の三つです。

 ①TSMEDの設立が2004年4月でした。
 その後、2006年度から同社は粉飾に手を染め、以降ずっと粉飾を続けてきたことになります。「粉飾するために設立された会社」であるはずないのでしょうが、なんとも首を傾げたくなる会社です。
 ②ホームページを見ると同社の資本金48億円とありました。
 資本金5億円以上であれば、非上場でも会計監査人の監査が必要となります。こうした単純な不正ならば、会計監査人が発見する可能性が高いでしょうし、果たして会計監査人はなぜこれを看過したのか?と思ってよく見ると「資本金4.8億円」でして、私が小数点「.」を見落としておりました。すいません。
 会計監査人を設置しないために資本金を5億円未満とすることは良くある話です。
 親会社のTMSC及び東芝本体は当然に、会計監査を受けているはずですが、TSMEDはその規模からして「重要性のない構成単位」として、監査の対象から外されているのでしょう(重要性の話は後述します)。
 ③親会社の指摘で不正が発覚しています。
 親会社が指摘した「資金収支の過度の悪化、仕掛品勘定の金額の増加等」は、財務数値の推移を見れば直ちに把握できるはずです。気になるのは「なぜ、今まで(2006年~2012年)気付かなかったが、今回(2012年)気が付いた」のか?です。
 粉飾の額が次第に膨らんでいき、金額的な重要性が高まっていったことは容易に想像できるのですが、その裏には「実はもう少し前に気がつくことはできなかったのか?」という疑問が残るのです。

 ちなみに今回問題となった金額は、上述したとおり9.863百万円でした(仮に現金の場合1千万円を1kgとしすれば約1トンにもなります。)。資本金480百万円のTSMEDにとって重要性はあることは間違いありませんが、親会社のTSMED(売上高277,450百万円、経常利益22,889百万円(2013年3月期))からしても、単純に利益との比率で見れば9,863/22,889=43%となり、相応の重要性が認められると思います。(ちなみに、東芝全体の売上高5,800,300百万円、事業継続利益155,600百万円(2013年3月期米国基準)ですから、重要性は乏しいでしょう。)
 
 最後に、同社が公表した再発防止策です。典型的な不正防止策ばかりですが、いくつかコメントします。
1.人事ローテーション
 今回の不正の原因は、取締役管理部長と経理グループ長が「長年」経理業務を行っていたこと捉えているようです。確かにその通りでしょうが、そもそも同社は少人数の会社(約200名)である以上、社内でローテーションすることは難しいことでしょう。
 もちろん「東芝グループ内でローテーションを実施する」ことは理想的であって、それに越したことはないのですが、現実問題として、「人事」は不正防止の観点からのみ検討されるわけではないので、なかなか難しい面もあるでしょう。少なくとも、一般の中小企業では難しい方法かもしれません。
2.役職員の会計に関する知識・能力の強化
 個人的には、これこそが最も重要だと思いました。
 これに加えて「5.監査役監査の充実」を再発防止策として掲げていますが、両者を切り離さない方が良さそうです。監査役は取締役を、取締役は他の取締役を、それぞれ監視する立場にありますから、要するに「役員間の相互牽制」が重要であり、より具体的には「会社役員らが自社の数値を丁寧に見る」だけでも重要なコントロールになるはずなのです。
 この点、本報告書の中に「(不正を働いた)取締役管理部長以外の取締役や幹部職員が経理についての十分な知識を有していたとは言いがたい」という記述がありますが、東芝グループ内には優秀な人材が多くいるはずでしょう。何ともお粗末な話です。
3.コンプライアンスの意識の徹底
 同じく同報告書の中に「上層部の言動で従業員に示す」「コンプライアンス研修の機会増加」とあります。確かに、不正の再発防止策としての一般論としては頷けますが、本不正事例では、その上層部自らが不正を行ったわけで、従業員からすれば納得がいかない話でしょう。
4.内部通報制度の改善
 これも一般論として良く耳にしますが、内部通報制度はうまく機能させるには相当な工夫が必要なようです。この点は改めて検討しましょう。

 私が提唱したい再発防止策は一つあります。
 あと、2百万円増資することです。そうすれば資本金5億円以上となり、会計監査人の設置義務が生じますから・・・。
 以上、やや長くなりましたが、本不正事例で最も印象に残ったことは一つです。
 当たり前ですが、「東芝は大きい」ですね。私もTOSHIBAのdynabook愛用です。Taku