2013年11月 雪国まいたけ。不適切な会計と代表取締役の辞任

 2013年11月、キノコ類の栽培・販売の雪国まいたけ(東証2部)は、「社内調査委員会の調査報告書の受領及び当社の対応」を公表しました。これに伴い「強くなりすぎたリーダーシップ」を発揮する代表取締役は、経営責任をとって辞任しました。
 ことの発端は、退任した取締役からの「過去の会計処理に係る疑義」の告発でした。
 具体的な「不適切な会計処理」(個人的には「仮装経理」や「粉飾」とした方が、その重要性が伝わると思いますが)の問題は、以下の三つです。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)
 上記の仮装経理の結果、平成24年3月 は配当原資はなかったことになります。
 その結果、平成24年3月期に実施した株主配当金133百万円は、全額、違法配当に該当します(違法配当となれば、株主に対する返還請求や、取締役の連帯責任の問題も生じます)。本件は、ただ単に取締役を辞任すれば足りる単純な問題ではないのです。
 今回は、本件の概要のみを扱い、次回、上記の仮装経理の詳細について検討します。

 

1.事件の経緯
 今回の事件の経緯を簡単に示すと、以下のとおりです。
・ 2013年6月、退任した取締役からの告発(過去の会計処理に係る疑義の指摘)
・ 2013年8月、証券取引等監視委員会による立入調査
・ 2013年10月、同委員会からの指摘等を踏まえて社内調査開始
・ 2013年11月、今回の調査報告書の公表及び代表取締役辞任
(今後、過年度決算書類等の修正を行う予定)

 

2.同社の業績の推移
 同社の有価証券報告書の経営指標の推移を見ると、同社の業績は2011年3月期まで順調に推移しています(推移しているように見えます)。同社の連結売上は約26,000百万円前後で推移し、利益はやや波がありますが、2011年3月期は906百万円の経常利益を上げています。これが2012年3月期に3,247百万円の経常赤字、2013年3月期には1,384百万円の経常赤字となっており、急激に業績が悪化したように見えます。
 この点、同社は2012年5月に業績予想修正を行っており、2012年3月期決算に関して「米国子会社の工場建設延期に伴い、固定資産の減損損失410百万円(連結)」と「これに伴い、米国の関係会社株式の評価損592百万円(単体)」を計上することとしています。
 この業績予測の甘さも今回の事件の兆候と捉えることもできるでしょう。
 以下、公表資料に基づいて、今回の不正事例を検討します。

 

3.不適切な会計処理の原因は「リーダーシップ」と「コンプライアンス意識の欠如」
 辞任した代表取締役は「強いリーダーシップ」、「強くなりすぎたリーダーシップ」と表現され、かなり大きな影響力を有していました。詳細な会計処理は次回検討しますが、いずれも「業績を悪化させてはならない」という考えが強かったことが原因と考えられます。
 こうした社長の考え方は、社風はもとより、幹部職員や末端の従業員の考え方にまで浸透するものです。以下、同報告書で示されている行動指針を紹介します。
 「私たちはできない理由を探しません!できる理由を見つけます!」
  「私たちは妥協しません!許しません!」
 多分にこの行動指針は、辞任した代表取締役が作ったのでしょうか?分かりませんが、この行動指針を見る限り、何か「ただならぬ雰囲気」を感じ取ることができます。
 もちろん善意に解釈すれば、「言い訳ばかりを探すのではなく、積極的に「できる」ことを考えろ」ということでしょうし、「妥協するな。ガンバレ」と理解することもできます。
 しかし、世の中には「できないこと」や「してはいけないこと」もあるわけで、それも含めて「何でもできる」としてしまえば、「無理が通って道理が引っ込む」ことになるでしょう。
 「妥協しません!」というのも耳障りはいいですが、「現実を直視しません」と読むこともできます。果たして「許しません!」となると、もう訳が分からなくなって、何に対して怒っているのか、どうにも二の句が継げません。
 上記の行動指針が、幹部社員や従業員のコンプライアンス意識を乏しくした要因となったことは間違いなさそうです。
「業績を維持するためには何をしても良い」
「業績悪化は許しません!」
 ということで、仮装経理が行われたと考えることができます。
 次回は、本事例をもう少し具体的な経理処理を検討したいと思います。Taku