2013年4月 大塚商会子会社での売上仮装・回収偽装

 大塚商会は「当社連結子会社従業員による不正行為に関する調査報告及び再発防止策について」を公表し、同社取締役会宛の調査報告書を公表しました。
 調査報告書を読んで「もう少し早くに何とかならなかったものか?」と、正直申し上げて痛々しく感じました。
 結果論的に受け止められるかも知れませんが、内部者には「絶対に怪しい」、「何か『からくり』があるに違いない」と考えていた人も多いはずです。
 皆さんは以下の1~3の調査報告書で示されている異常点を見て、どのように考えるでしょうか?ちなみに、「 」は調査報告書の表現です。
1.売上構成比率
 当該子会社の2012年の売上総額は103億円(大塚商流64億円+外部直販等39億円)でしたが、そのうち不正のあった大阪支店の売上は35億円(大塚商流5億円+外部直販等30億円)でした。大阪支店では「外部直販等が異常に高額」でした。その大阪支店の外部直販等30億円のうち、29億円が不正実行者の受注案件でした。大阪支店の営業マンは6名でした(つまり1名の不正実行者の売上が29億円、残り1億円が5名の営業マンによる売上です)。不正実行者1名の売上が、大阪支店の売上の8割超、当該子会社の売上の3割弱を占めていたわけです。
2.多額の受注と本社の対応
 不正実行者の「驚異的な売上、そして全ての確実な回収という実績を目の前にして、これを厳しく審査することができず、それどころか、その異常な売上を前提にして、翌年度は売上伸張110%の予算値を設定して、その実現を迫るという対応に終始していた」。まさに「病理的現象」といえるでしょう。
 不正実行者の「受注の異常性を感じた従業員や大阪支店長から本社及び上位役職者等に都度相談が行われていたが、本社及び上位役職者において十分な対応は行われず」にいました。
3.不正実行者への特別待遇
 加えて不正実行者は「会社にはほとんど姿を見せず」に、突然、高額取引を持ち込み、また「大阪支店長の指揮命令を無視し、あるいは曖昧に受け流しこれを聞かず、売上の大きさが全ての免罪符であるかのように振る舞い、特別待遇を楽しんでいた面が」あったようです。
 正に異常ずくめです。
 上記1~3を目の当たりにして「怪しい」と考えない者はいないでしょう。
 この不正が発覚した際、多くの関係者が「やっぱりな」と感じたはずなのです。
 本調査報告書では、不正実行者による関係書類の偽装の巧妙さを強調していますが、いくら偽装が巧妙であったとしても、上記の異常を受け入れることは、常識的に考えて無理なことです(結果論的ではありますが)。
 多分に不正実行者への追及を鈍らせた最も重要な事実が「入金の事実」でしょう。
 「確かに怪しいけど、入金されてるし。」
 という安易な納得が、不正実行者を野放しにさせたと考えられるのです。
 不正実行者が最も重視した不正隠蔽策は、取引を偽装する巧妙さではなく、「入金の事実」の達成だったはずです。それでは、不正実行者は、どのようにこの不正を実行したのでしょうか?
 以下、仕訳で考えてみましょう。
(1)下請け業者に対する先行工事発注を行い未成工事支出金(仕掛品)として支払う。
(借)未成工事支出金 ××百万円① (貸)預金   ××百万円①’
(注)下請け業者保護の観点から、その支払を優先的に行うことが求められます。また取引慣行上、元請け業者への手数料を先行して支払うこともあります。
(2)工事完成を装って元請け業者に対して売掛金・売上計上し、未成工事支出金を売上原価に振り替える。
(借)売掛金     ××百万円② (貸)売上高     ××百万円
(借)売上原価    ××百万円  (貸)未成工事支出金 ××百万円
(3) 売掛金が入金され、その消し込みを行う。
(借)預金      ××百万円③ (貸)売掛金  ××百万円
 注目すべきは、上記(3)③の売掛金の入金は、実は(1)の未成工事支出金として支出された預金の支払い①’によって資金が循環されている点です。
 帳簿上は下請け業者に支払ったはずの資金が、実際には不正実行者によって自社に環流されて、この入金をあたかも売掛金が入金されているかのように偽装したわけです。
 当然のことですが、①’の未成工事支出金の支出を止めれば、③の売掛金の入金も止まります。
 自転車操業的に資金を循環させて売上及び回収を偽装する不正は常套手段ですし、こうした不正の場合、不正実行者の横領している資金が嵩上げされ、次第に架空の取引金額が大きくなっていく特徴があります。
 本件も未成工事支出金や売掛金の残高が次第に大きくなっていったのでしょう。
 こうした不正は、いつか限界がやってきます。未成工事支出金の支出が次第に大きくなった結果、その支出が止まり、売掛金の回収が遅延してゲームオーバーです。その結果、①の未成工事支出金の残高が225百万円、②の売掛金の残高は841百万円、合計1,066百万円とが同社の貸倒要因となったわけです。
 調査報告書は上記の再発防止策として、以下を課題としていますが、皆さんはどのように考えるでしょうか?
(1)コンプライアンス意識の向上
(2)内部通報制度の改善
(3)不正が発覚した子会社における内部統制の強化
(4)連結子会社の内部管理体制強化と監査指導
 こうした教科書的な不正の対応が不要だとは言いませんが、一方で非違事例に起因して管理を徹底化する余り、却って業務効率が害されるリスクが生じることにも注意が必要です。
 むしろ不正が発覚できなかった本質的な理由を見定めた上で、冷静かつ単純に再発防止策を考えた方が良いことが多いようです。
 本不正の発覚が遅れたのは、社内の多くの人達が「異常」と知りつつも「安易に納得してしまった」ことに起因します。そのため、不正を適時に発見するには、「異常を識別したならば、納得行くまで追及すること」に尽きます。
 不審に思っていながら十分な対策を講じなかったことについて、関係者(特に相談を受けた経営陣)が反省することが重要なのです。その反省がないままに、いくら管理体制を強化しても、従業員の無駄な作業が増えるだけです。逆に経営陣を含めた関係者が反省さえすれば、同様の事件は起きたとしても早期に発見できるはずです。
 「今、考えてみれば、確かに・・・」「やっぱりおかしいと思っていたんだ・・・」「支店長が黙認していたから」「本部には相談したけど本部の対応だって鈍かった・・・」「不正実行者が悪いんだ。俺のセイじゃない」
 皆、自分のセイだとは思いたくはないのでしょう。不正が発覚したときに良く聞くセリフです。しかし、本当に自分の責任ではないのでしょうか?
「いくら売掛金が回収されているからといっても、それ以上に未成工事支出金が出金されているでしょう」

「現場はどうなっているんだ?そんなに大きな案件なら書面だけでなく現場も確認したほうが良い」

と指摘できる人は、いなかったのでしょうか?その指摘ができなかったことについて、責任はないのでしょうか? Taku