東証は、上場廃止の判断基準である”影響の重大性”を明示せよ

本日、東京証券取引所はオリンパスを特設注意市場銘柄に指定しました。

オリンパスの問題が発覚して以降、メディアやネット上で上場維持か廃止かが、喧しく取り上げられていました。その中には2007年11月の特設注意市場の創設・制度化をまったく考慮せず、上場維持か廃止かの二者択一の選択肢しかなかった時代のライブドア等の処分事例を持ち出して結論づけているものもありました。

当初はずいぶん乱暴な意見をいうものだ、と思っていましたが、東京証券取引所のオリンパスには重大な影響がないとする、理由を読むとそれも当然と思えます。

 

(オリンパスに重大な影響がないとする理由)

 本件虚偽記載の内容については、財務諸表への影響は長期間に及んでいたものの、同社の事業規模を踏まえれば、その利益水準や業績トレンドを継続的に大きく見誤らせるものであったとまではいえず、同社の本業における経営成績を拠り所とした市場の評価を著しく歪めたものであったとまでは認められませんでした。このため、上場廃止が相当であるとする程度まで投資者の投資判断が著しく歪められていたとは認められませんでした。

以上のように、本件虚偽記載の影響の重大性について総合的に勘案すると、上場廃止が相当であるとまでは認められない

 

オリンパスの株価は、マイケル・ウッドフォー社長解任発表前日の昨年10月13日が2,482円。11月7日には1,034円と急落しました。そして同月8日に過去の損失計上先送りを公表してからストップ安が続き424円まで下がった後、週明けの14日に540円と反騰し、その後12月14日の1,410円をピークに本日まで、1,200円の近辺で推移しています。

ウッドフォード社長の解任前日の株価から最低17%にまで下がったこと、平成20年3月期の最高価格が5,320円であったにもかかわらず、「市場の評価を著しく歪めたものであったとは認められませんでした」というのは、どのような判定基準によるものなのでしょうか。まさか、11月のストップ安は上場廃止懸念によるものであって、業績を大きく見誤らせたものではないとでも言うのでしょうか。まったく理解できません。

 そもそも「影響の重大性」について、東証は次のように開示するにとどまっています。

 

 影響の重大性の審査は、有価証券報告書等における虚偽記載の内容、当該虚偽記載が行われた経緯、

 原因 及びその情状その他の事情を総合的に勘案して行う(上場管理等に関するガイドライン)。

 

 これではオリンパスが公表した事実に照らすと、東証がどのように判断するのか、投資家はまったく予想することができません。損失額が不明であることよりも、”重大性”概念について、基準や考え方を示していないことが、市場にいらぬ疑心暗鬼を生み、株価を乱高下させたのです。

 

過去の東証の特設注意市場銘柄指定を見ても、2009年11月25日に特設注意市場銘柄に指定したアルデプロでは、「同社株式について、有価証券上場規程第601条第1項第11号aに該当せず」としか、その理由を開示していません(特設注意市場銘柄指定状況)。また、本年1月に特設注意市場銘柄に指定した京王ズホールディングスについては、次のように開示するだけで、”重大性”の概念については、まったく触れていません。

 

本件虚偽記載の内容は、長期に及ぶもので、同社の経営成績に関する市場の評価に影響を与え得る程度に重要なものといえますが、業績トレンドや事業規模を継続して大幅に見誤らせるものとまでは認められませんでした。また、訂正の経緯においては、経営陣の関与がみられ、訂正の原因は、新たに判明した貸付けに係る貸倒引当金の計上や会計処理についての知識や認識が不十分であったことにあると認められます。このように、本件虚偽記載の影響について総合的に勘案すると、その重大性については、上場廃止が相当であるとまでは認められない

 

 これらを見てもわかるように、東証は何ら規準を示さず、ただ重大性がないと言っているにすぎません。この状況にアナリストもメディアも何も言わないのが、不思議です。

 

東証はオリンパスの株価の乱高下を招いたのは、上場廃止基準を明示しないことにあることを自覚し、反省しなければなりません。そして、上場廃止の判断基準である重大性について、「当取引所において処分を判断する際の留意事項について」程度の見解を早急に発表しなければなりません。今すぐにできることとして、特設注意市場銘柄に指定した会社については、過去の分を含めその理由を全社、開示することも必須です。

 

   また、昨年11月14日市場が上場維持はできないだろうと思っていたところに、証券取引等監視員会の処分動向の報道があり、株価は急転しました。 上場可否の判断は、東証が行うことになっていますが、「その他の事情を総合的に勘案」する要素に証券取引委員会の処分形態が大きく影響するならば、自主規制法人の存在価値はありません。この点についても東証は影響の有無等を公表しなければなりません。

 

Tetsu