2014年1月 質問という監査手続 その3

 前回に引き続き、去年のはじめ(20131月)の「嘘を見抜く方法」という記事との関連で「質問」について考えます。

 質問した結果、「怪しい」「嘘かもしれない」と感じる場合があります。

これは「不正の兆候」として重要な感覚です。

仮に不正実行者が質問の対象となっている場合で、不正の有無について質問が行われている場合は、不正実行者は動揺し、不自然な対応をとる場合があります。質問者が不自然な回答に気がつくことは、不正発見の端緒なのです。

・質問を繰り返す場合

十分に聞き取れているはずにもかかわらず、相手が質問を繰り返してくる場合には、回答者は「どう答えるべきか」を考えている可能性があります。回答者は質問の意図を探りつつ、どう取り繕おうかを考慮していることがあるので、回答の信憑性に注意を要します。

・質問返し

質問に対して質問で返す場合です。「その時、あなたはどこにいました?」「なぜ私に質問するのですか?」という場合です。「あなたこそ、どこにいたのですか?」という返し方もらうでしょう。素直に答えられない事情があり、質問をはぐらかそうとする意図を感じます。

・繁忙

「すいません。忙しいので・・・。」とその場を去ろうとする対応ですが、怪しいか否かは口調にもよります。感情が内に籠もった口調である場合の他、他意がありそうな表現であれば、「都合の悪い場から離れたい」という意向の現れと見て良いでしょう。特に含みがなく、「本当に忙しい」ことも考えられますから、勘ぐりすぎない注意も必要です。

・無関係、無知

「私は関係ない」「知らない」こうした対応も、その言葉にどのような感情が伴っているかによって、質問者が感じ取る「怪しさ」の程度は異なります。回答者が冷静沈着に答えている場合と、明らかに狼狽えて答えているかによって、その回答の真実性を推し量ることは可能でしょう。仮に具体的な質問をする前から、感情的に「私は何も知らない!」と騒いでいるのであれば、何らかの事実を知っているケースが多いと思われます。

・忘却

 「覚えてない」これも同様に、感情・口調が重要です。こうした対応には、通常は「それに関連した何かを覚えていませんか?」「何でもいいですから覚えていませんか?」という問いで繋ぐのが一般的です。その上で、「何にも覚えていないといっているでしょう!」「全部忘れたんです!」との感情的な回答があれば、何らかの事実を知っている可能性も否定できません(質問者のしつこさにもよりますが)。また質問内容の詳細度が高まっている状況下で、些末なことは覚えているのに、核心部分になると「覚えていない」と答える場合にも、都合の悪いところだけ隠蔽していると見て取れる場合があります。

・不平や不満

質問をしている最中に、「この部屋熱くない?」「イスが堅いんだよね。」等、質問者以外の状況に不平や不満を漏らす場合があります。これは質問に対するストレスを感じている証拠で、実は質問者に対する不正や不満の現れと見るか、またははぐらかしか、そのいずれかとみて良さそうです。状況の改善をしてあげるかどうかは別として、不平・不満のあとの質問に対する回答の信憑性には疑問がもたれる場合が多いと思われます。

・妙な改まり方

「分かった。本当のことを話す」との言い回しは、これから話す嘘を信じさせようとする幼稚な手法である場合があります。「実は」は実話ではないことがあるのです。「実は」と改まって話し始めた場合には、真に観念して話しているのか、何とかその場を取り繕うとしているのかを見極める姿勢が重要です。

・敵対と極端な敬意

自分が潔白であるにもかかわらず嫌疑が掛けられれば頭に来るのは同然でしょうが、自分に疚しいことがなければ、疑いをかけられた側は「身の潔白を分かってもらおう」と真摯に対応することが建設的です。相応の責任ある立場にある人は、特に感情的になることは損だということを理解していることが多いので、不用意に敵対をしようとは考えないことが多いと思われます。逆に罪を犯している場合には、その発覚を恐れて緊張し、無関心を装ったり、又はぶっきらぼうな態度や横柄な物言いで質問者と敵対しようと考えることが多いようです。さらに、興味深いことに、人によっては、質問者に対して極端な敬意を払い出す不正実行者もいます。「ゴマをする」ことで質問の切っ先を鈍らせようとしている意向が働いているのかもしれません。

 

回答者が感情的になっている場合には、一旦、質問を中断することが通常です。回答者が冷静になった時点でアッサリと回答を始める場合も多いためです。また質問を変えたり、回答者を変えたりすることも必要な場合があります。重要なことは無理に質問を続けることで、回答者が感情的になりすぎて修復が困難となることを避けることです。

 質問に行き詰まった場合には、質問する側が黙ってしまう方法もあります。回答者の出方を見るためです。この場合、平気で嘘をつける人は平然としていることが多いですが、「質問者に自分の潔白を理解してもらおう」と考える回答者であれば、質問者の沈黙を不審に思って「どうしたんですか?」と逆に質問してくる可能性もあります。質問者側の沈黙が、時として、回答者側の回答につながる場合もある訳です。質問という手続は奥深いのです(その1へその2へTaku